中国のミドルクラスは、中国経済の将来に対して深刻な疑問を抱いている。少し前まで好景気は当たり前だった。現在は、不動産不況に株式市場の低迷、景気のさらなる落ち込みに見舞われ、中国に好景気はもう戻ってこないのか、という厳しい問いを突き付けられているのだ。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月29日付)は、「中国ミドルクラスが不安をつのらせる理由」と題する記事を掲載した。
(1)「中国・上海に住むブレーク・シューさん(33)にとって、3年前は全てがうまくいくように思えた。起業家であるシューさんと家族は、当時ブームだった不動産に投資した。妻は第1子を妊娠していた。マンション1戸を売却したばかりで、その収益のほぼ半分を株式に投資した。その後、中国の不動産市場は低迷し、上海と深圳の主要300銘柄で構成されるCSI300指数は価値の約3分の1を失い、経済は一段とぜい弱になった。消費者マインドは落ち込み、民間投資は低調で、若年層の失業率は極めて高い水準にある。シューさんはすでに中国株式市場から資金をほぼ全て引き揚げている。次は中国からの脱出かもしれない」
中国景気の実態は、不動産バブルである。株価急騰もその余波であった。肝心のバブル崩壊で、中国の中間層は茫然自失の状態へ追込まれている。
(2)「人々は支出を減らして貯蓄を増やし、高リスクの投資を避けている。中国人民銀行(中央銀行)のデータによると、家計貯蓄は2月までに19兆8300億ドル(約3000兆円)と、過去最高に達した。消費者信頼感はここ数十年で最低の水準に近い。都市部やホワイトカラー職の人々が一段と神経をとがらせていることは、中央政府にとって大きな問題になりかねない。政府は長年、統治の正統性の根拠を安定した経済運営に置いてきた。今、その根拠がいっそう揺らいでいるように見える」
中産階級は、一斉に生活防衛体制を取っている。消費を切り詰め貯蓄を増やしている。これが、景気全般をさらに押下げる事態を生んでいる。歯車の逆回転とは、こういう状態を指している。
(3)「中国には個人投資家が2億2000万人余りいる。つまり、株式市場の動きが国民心理を大きく左右しかねない。同国ではかつて、個人投資家はギャンブラーだと言われていた。だがここ数年の不振を経て、投資を減らし、投資先をマネーマーケットファンド(MMF)のようなもっと安全な資産に変える人が増えた。不動産部門不振は、消費者マインドをさらに悪化させた。同部門の過剰債務を抑制する試みとして政府が3年ほど前に導入した措置は危機を招いた。多くの開発業者を破綻寸前に追い込み、経済成長の大きな原動力だった同部門の足を引っ張った」
個人投資家が2億2000万人もいるという。これが、中間層の軸であろう。彼らは今、株式投資から遠ざかっている。住宅不振も同時並行であるから、中国経済の「心棒」が抜けた形になっている。
(4)「大都市部の中古住宅価格は2月に前年同月比6.3%下落し、前年比で過去最大の落ち込みとなった。起業家のシューさんは2軒目の不動産を売却したが、大きな痛手を被ったという。だが後悔はしていない。このお金があれば、状況がさらに悪化して国を離れることになったとき、身軽に動けるからだ。「心情的には、この国がうまくいくことを願っている」とシューさんは言う。「でも指導部が今のままなら、正直なところ、出口戦略は必要だ。何しろ先行きが不安だ」。この心情こそまさに、政府当局者を不安にさせるものだ。中国政府は権力をしっかりと掌握しているが、国民感情には神経をとがらせている」
このパラグラフは、中産階級の心情を100%捉えている。国家を思う気持ちがないことだ。選挙で選ばれた政権でなく、銃口によって得た政権の基盤は、こういう脆弱な上に成り立っていることを示している。中国経済について、他人事としてみているからだ。真の国を思う気持ちがゼロである。当然であろう。発言権がないからだ。
(5)「中国の国民は、銀行や企業を相手にデモを行うなど、不満があれば公の場で声を上げてきた。政府は最重要の原則が守られている限り、少なくともある程度の異論は容認してきた。その原則とは、中央政府を批判しないことだ。だが実際には、目下の経済問題は中央政府に責任があるとの批判もある。インターネット企業や塾、不動産業界に対する政策転換や、消費者マインドを長期にわたって悪化させた厳格な新型コロナウイルス対策などがやり玉に挙げられている」
国民は、習近平政権への批判を強めている。「反スパイ法」強化に裏には、こうした国民の不満を押し潰す狙いがある。
(6)「投資を控えて貯蓄する姿勢に転じたことで、景気低迷がマインドを悪化させ、悪化したマインドがさらなる景気低迷を招くという悪循環に拍車がかかっている。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院の教授(グローバル経済・経営学)で、シンクタンク「ウィルソン・センター」の研究員も務めるヤシェン・フアン氏はそう指摘する。「社会がいったんある心理状態になると、それを変えるのは容易ではない」
下線部の指摘は、極めて貴重である。日本が長いこと、こういう状態の下で「値上げは悪」という心情が定着していた。これを取り払うのに、これまで10年もかかったのだ。厳密に言えば30年である。中国も同じ状態に落込んだ。