a0003_ki_0063_m

インドネシア・バリ島で週末に開催された国際通貨基金(IMF)と世界銀行の年次総会は、中国が掲げる巨大経済圏構想「一帯一路」への風当たりが強くなっていることを印象付けた。『ロイター』(10月14日付)はこう伝えている。

 

「一帯一路」は、勃興する中国経済を背景にして、大きな野望を掲げていた。だが、この期待は中国経済の抱える問題から、規模縮小に向かわざるを得なくなった。これからどうなるのか。「一帯一路」の存続そのものに、関心が集まるほどになっている。

 

その背景は、米中貿易戦争で中国経済が受ける被害である。この程度いかんで、経常収支の恒常的赤字化が想定されるからだ。すでに、今年1~6月期の経常収支が、2001年のWTO加盟以降、半期として初めて赤字となった。この状態が恒常化すれば、「一帯一路」などと悠長なことを言っている余裕はなくなる。「人のハエを追うより自分の頭のハエも追え」という批判を浴びるからだ。現に、中国国内でこういう意見を表明し、拘束された大学名誉教授がいる。

 

前記の『ロイター』は、「色あせる中国、一帯一路、国際金融の舞台で矢面に」と題する記事を掲載した。

 

(1)「中国は一帯一路の構想をグローバル化推進の原動力と位置付けて脚光を浴びたが、保護主義台頭への不安が広がる中、輝きは褪せてきたようだ。国際金融協会(IIF)の前会長、チャールズ・ダラーラ氏は総会で、『中国はある意味で(国際貿易)体制に便乗しているとの見方が西側で広がっていると思う。1980年代の日本に対する西洋の見方を思い起こさせる。そっくりだ』と指摘した。こうした見方はトランプ政権に限らない。ラガルドIMF専務理事もバリ島での貿易会合で、知的財産保護や競争の確保、行き過ぎた市場支配的立場回避の重要性を訴えた。中国を名指しはしなかったが、いずれもトランプ政権がたびたび中国について指摘する課題だ」

 

今年のIMFと世銀の年次総会は、中国への厳しい批判が集中した。中国はある意味で(国際貿易)体制に便乗しているとの見方が西側で広がっている。1980年代の日本に対する西洋の見方を思い起こさせる、とまで指摘された。1980年代の日本は、保護主義一辺倒で、現在の中国を彷彿とさせるものであった。それが、1985年の「プラザ合意」で、急速な円高への道が作られた。現在の円相場が1ドル=110円台になるきっかけになった。

 

中国も日本と同様な「開国」が要請されている。ラガルドIMF専務理事は、バリ島での貿易会合において知的財産保護や競争の確保、行き過ぎた市場支配的立場回避の重要性を訴えている。このように、中国経済に向けられた批判・要請は極めて大きくなっている。GDP規模に見合った、市場開放が要求されるのは当然であろう。中国は、「中国製造2025」の産業高度化戦略が完成をするまで保護主義を貫く。そういう「言い訳」が、通るはずもないのだ。

 

(2)「これまでトランプ氏の関税政策について集中砲火を浴びることが多かったムニューシン米財務長官は、今回の会合では従来より自信を増し、『自由で公正な相互貿易』を求めるトランプ氏の望みがより良く理解されるようになったと指摘。さらに、『(同盟国は)中国に圧力をかけるための連合ではない。中国に関連してほぼ共通の課題に直面し、志を同じくする人々の連合だ』と強調した」

 

米国の主張への理解が、かなり進んでいることは事実だ。それだけ、中国への批判が高まっていることを意味している。この中国批判は、保護主義と一帯一路に向けられている。批判の共通項は、中国が余りにも自国の利益本位で行動するからだ。

 

(3)「一帯一路に関する世銀のパネル討論会では、この構想に加わった小国の債務の持続性や、小国が中国との交渉力を欠いていることなどについて、中国高官らが質問責めにされた。ブルッキングス研究所のシニアフェロー、デービッド・ダラー氏はパネルで『一帯一路プロジェクトが極めて良いものだったとしても、低所得国にとっては過剰な債務を抱える深刻なリスクがある』と指摘した」

 

世銀では、「一帯一路」のシンポジュームを開催した。こうなると、中国は逃げ場を失い「集中砲火」を浴びることになった。この席では、低所得国にとって過剰な債務を抱える深刻なリスクがあるとまで指摘されている。例の「債務漬け」を指している。

 

どうして、こういう無慈悲なことが行えるのか。中国には、日本のODA(政府開発援助)のような被援助国中心の考えが存在しなかった。実際、「一帯一路」融資では商業銀行ベースの金利が課されている。インフラ投資の資金が、商業銀行ベースの金利では採算に乗らず、債務返済できるはずがない。中国は、それを承知で融資した。非難されるゆえんだ。

 

習近平氏は、今年8月下旬に北京で行われた「一帯一路5周年記念会合」で、次のような演説をしている。「一帯一路は経済協力だけではない。世界の発展モデルや統治システムを改善する重要なルートだ」と明言、新たな国際秩序作りにも意欲を示した。だが、こういう「大風呂敷」を広げるたびに、先進国からは疑念を持たれている。中国が、一帯一路を世界覇権挑戦への足がかりにしようと狙っていると見なされるのだ。こうして、ますます「一帯一路」批判が強まる悪循環に陥っている。