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FRBは、トランプ大統領からのけん制にもかかわらず、「利上げ態勢」を貫いている。これは、市中銀行からの適切なヒアリングの結果であろう。確実に進む雇用状況の改善と賃上げ。さらに消費者物価も動意を見せている。大規模なトランプ減税による刺激効果を考慮すれば、利上げは当然という姿勢だ。市中銀行が、「利上げは当然、利上げに驚く人のいることが驚き」という状態である。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月12日付)は、「米株安、FRBは投資家の味方か否か」と題する記事を掲載した。

 

(5)「9月のインフレ率は過熱感を示さなかった。これを聞いて神経質な投資家も少しはほっとしただろうと思った人もいるかもしれない。だが、法則は変わった。米労働省が10月11日に発表した9月の消費者物価指数(CPI)は8月比0.1%の上昇だった。エコノミスト予想の0.2%上昇を下回り、前年同月比では2.3%の上昇となった。金利が上昇するという見通しを受けて金融市場が動揺し、10日には米株式市場が急落していただけに、そのニュースは歓迎されるはずだった。ところが11日、株式市場は動揺した。これには貿易摩擦、中国経済の減速が世界の需要に及ぼす影響をめぐる懸念などいくつかの要因が挙げられるが、米連邦準備制度理事会(FRB)は味方してくれないという認識が投資家に広まりつつあることも一因かもしれない」

 

FRBは、これまで利上げが株式市場に影響を与えないようにしてきた。中国が人民元相場で動揺した際、利上げを延期したケースもあった。今後、そういう配慮はせず、「景気判断一本槍」で進むであろう。こういうFRBの姿勢にショックを受け11日、株価急落を招いたとの説も出ているほどである。

 

FRBによれば、米国経済の足腰がそれだけ強くなったという判断だ。折しも、米中は貿易戦争に入っている。米国は、自ら引上げた関税で消費財価格の値上がりは避けられない。これが、消費者物価上昇に飛び火するリスクを抱える。国内景気が力強い動きをしていることと合わせ、FRBが利上げで手遅れにならぬよう手を打つのは当然であろう。

 

FRBが、利上げに敢然として取り組む理由は次の点にある。

 

(6)「先ず、FRBがもはや金融市場の脆弱性を心配していないということがある。2016年初めには世界の株式市場の急落が経済に及ぼした影響を懸念して利上げ計画を巻き戻すということがあった。現在、米国経済は健全であり、今年の減税措置や歳出増加という追加的な景気刺激策の恩恵も受けている。確かに、株式市場が下落し続ければ、12月の米公開市場委員会(FOMC)会合で利上げが見送られるということもあり得るが、現在の水準を大幅に下回った場合に限られるだろう」

 

米国経済が「破竹の勢い」で進んでいるのは、本来の回復力に加え、今年の減税措置や歳出増加という追加的な景気刺激策の恩恵もある。要するに、米国経済はどこから見ても、死角がないほどに上昇エネルギーを貯めている。純粋な経済的判断から見て利上げを止める理由はない。

 

(7)「さらに言えば、FRBはインフレの数値よりも雇用市場がどれほど逼迫してきているかに注目しているようだ。9月の失業率は1960年代以来の低水準となった。採用が就労可能人口の増加を上回るペースで増えているため、さらに低下しそうである。こうした傾向が続く限り、FRBが利上げを中止する可能性は低い。それどころか賃金が上昇し続ければ、FRBは引き締めを加速する必要があると判断するかもしれない」

 

9月の失業率は3.7%まで下がった。これは1969年以来およそ49年ぶりの最低水準となる。失業率は昨年10月から6カ月連続で4.1%にとどまり、4月に4%を割った。その後は6カ月連続で4%を下回り、9月には半世紀ぶりの最低水準となった。この失業率低下の推移は、米国経済の力強さを余すところなく示している。FRBが利上げを躊躇する理由はどこにもない。批判するトランプ氏の無理解こそ批判されるであろう。

(8)「FRBが金融引き締め政策に積極的になり過ぎて米国経済がリスクにさらされるという危険性もある。とはいえ、米国株のバリュエーションが依然として割高で、利益成長をめぐる期待が大きいことを踏まえると、株価はそれ以外の理由で下落する可能性もある。FRBの政策決定が米国経済にとってまさに最適なものであったとしても、投資家にとっては喜ばしいものではないかもしれない」

 

米国株価が、下落した理由は利上げにあるのでなく、株価自体が高く買われすぎたことによる「スピード調整」に基づく。FRBは、このように見ているというのだ。こうなると、FRBを批判するより、株価が買われすぎたことに下落理由がある、と突き放しているように見える。