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胡錦濤・前政権まで政府報告においては、必ず農業が「三農問題」としてトップで扱われてきた。習近平政権になると一変、政府報告の主要議題から消えた。代って登場したのが国防強化である。この農業問題から国防重視への姿勢変化こそ、中国が海洋拡張へ動き出した証拠だ。

 

戦前の日本は、農村貧困問題解決のために満州進出という誤った政策を採用した。習近平氏には、そういう農業に対する認識もなく、ひたすら海洋進出=国防拡張という帝国主義的な発想を強化している。この原因はどこにあるのか。最後で取り上げる。

 

海外メディアの診断する中国問題では、「三農問題」が最大の弱点と指摘している。その三農問題とは何か。

 

    農民問題:三農問題の中核となる問題、農民の収入が低く、増収は困難であり、都市-農村間の貧富の差は拡大し、農民は社会保障の権利を実質得ていない。

 

    農村問題:農村の状態が立ち遅れ、経済が発展しないことに集中して示している。比喩として、中国の都市はヨーロッパのようだが、農村はアフリカのようである。

 

    農業問題:農民が農業で金を稼げず、産業化のレベルが低いことを示している。

 

都市と農村の格差拡大は、縮小どころか拡大の傾向にある。前述のように、「中国の都市はヨーロッパのようだが、農村はアフリカのようである」。

 

『レコードチャイナ』(10月13日付)は、「中国経済最大の弱点とは?」と題する記事を掲載した。

 

(1)「米華字メディア『多維新聞』(10月11日付)によると、英紙『フィナンシャル・タイムズ』が独自の視点から中国の経済と農村を観察し、中国最大の弱点について伝えた。記事は、「中国の経済は今や大きな成功を収めているが、人口の60%を占めるのは農民と出稼ぎ農民であることに思いが至る人は多くない。彼らはややもすれば底辺の人間のレッテルを貼られて市民の枠から外され、それは農業、農村、農民のある弱い立場を反映している」とした。そして、「体の大きい巨人のようだが、泥で汚れた足で立っている」と中国の実情を表現し、三農問題こそが中国モデルの最大の弱点になっていると指摘した」

 

習近平氏は現在、大都市から農民の出稼ぎ者(農民工)を強制的に排除している。農村に帰させているのだ。大都市が農民工を吸収できなくなった点もあるが、農村が便宜的に扱われていることは明らかである。戦前の日本では、農村から優秀な人材が輩出したので農村を大事にする気風があった。中国は全く異なり、教育面でも冷遇している。この日中に見られる差が、国家として骨格面における強弱を反映している。

 

以下の問題は、「三農問題」を具体的に論じている。

 

(2)「第一は農業問題で、「中国の農業は、高生産コスト、低生産性、補助金への依存、農村と農業の近代化の遅れ、生態環境の悪化などの問題に直面している」と述べた」

 

農業の生産性が低いので、農薬多投という間違った対策に走ってしまい、環境悪化に拍車をかけている。土壌・河川の汚染は農薬多投の結果である。これが、土壌をさらに悪化させる悪循環に陥った。農村に人材がいない悲しい結末である。

(3)「第二は農民問題で、「中国の農家の平均収入が都市部と比べてはるかに低く、農村は活力が失われている。また、人口が高齢者・幼児・病人・障害者・女性および数千万にも上る留守児童により構成されている」と述べた」

 

一人っ子政策が、農村を疲弊させた。戸籍も「農民戸籍」で縛り、「都市戸籍」と大きな差を付けている。毛沢東政策の失政の一つである。同じ国民でありながら異なる待遇を受ける点で、「一国二制度」と言える矛楯を抱え、いまなお解決の目途が立たない。

(4)「第三は農村問題で、「中国の農家は、その土地の住民であれば土地を取得できる。農家がやる気を持って農業にとどまらなくても追い出される心配はないため、有能な農家が経営規模を拡大することができず、豊かになることができない」と述べた」

農民に土地を与えたのは、食糧確保が目的である。だが、食糧自給は夢のまた夢の状況である。豚肉さえ輸入に頼る時代だ。中国の訪日観光客が一様に驚くのは、都会と農村の生活水準が変わらない点にある。所得でなく貯蓄額で見れば、農村の方がはるかに豊かだ。中国とは完全に逆転している。

 

日本の農村が豊かなのは、地方自治制度の確立と地方財源不足を日本政府がカバーしている点にある。中国の地方政府は、独自の財源も不足し、土地売却益で賄うという異常なことをさせている。清朝時代と同じで、中央政府は地方行政に無関心という悪しき慣習を受け継いでいる。

 

日本は江戸時代の藩政が、自主財源をつくり地域発展の基礎をつくった。これが「封建制度」のプラス面で現代に生かされている。中国は「専制制度」で朝廷が地方を直轄支配した。現在の中国は、この専制制度を踏襲している。中国には、「封建制度」の経験がなく、「専制制度」のまま共産主義に移行した。その歪みが今、大きく現れている。歴史の発展過程の重要さが分るであろう。いわゆる、「集合的無意識」の違いだ。