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中国政府は、体面を極めて重視する。中央政府の財政赤字をできるだけ小さく見せるために、国債発行額を絞る。そのツケは、国有企業と地方政府に吹き寄せられている。国有企業は、自らの債務行為でインフラ投資を行なう。地方政府も同様な負担を背負わされているのだ。

 

地方政府には、独自財源が少なく土地利用権の売却益を一般財源に充当させるという、先進国では考えられないことを強制している。これが、地価を釣り上げて不動産バブルを加勢させた理由になっている。おおよそ、地方政府のやるべきことでない。中央政府は、こういう常軌を逸した行動を黙認して、GDP押上げだけを目的とする政治を行なってきた。過剰債務に陥ったのは当然であろう。

 

中央政府は、極限までインフラ投資にこだわってきた。GDP押し上げでは、これだけ即効性のある需要項目は他にないからだ。だが、投資効率を重視しないインフラ投資だから、投下資金の回収は不可能である。債務による投下資金である。債務は、雪だるま式に増える一方である。それが、現在の過剰債務を招いた理由である。

 

ここで、一つ注意しておきたい点がある。インフラ投資には耐用年数があるのだ。現状では、不採算投資が圧倒的であるから、満足な減価償却が行なわれているか疑問である。となると、設備改修期に莫大な財政負担が発生する危険性が生まれる。中央政府が抱える二大時限爆弾は、年金財源不足とこのインフラ投資の減価償却不足であろう。

 

インフラ投資の「隠し債務」の一つに、PPP(Public Private Partnership:官民協力事業)がある。GDP押し上げの便法に使われている。

 

『サーチナ』(9月19日付)は、「中国の官民協力PPPは190兆円規模に拡大、財務部は野放図な計画を締め付け」と題する記事を掲載した。

 

このPPPによるインフラ投資案件の登録が約191兆円もあることに驚かされる。ただ、この登録案件が、全て承認されて着工しているわけでない。財務部(財務省)の審査が行なわれている。それにしても、191兆円ものインフラ投資案件に民間資金を導入すると言うが、採算性のあるプロジェクトがどれだけあるか疑問である。債務全体が膨れ上がっている状況を考えれば、強制的に「奉加帳」を回されて参加させられたことは否めまい。

 

(1)「財務部によると、7月末時点の登録プロジェクト7869件のうち、すでに3812件(全体の48.5%)、総投資額6兆1000億人民元(98兆8200億円)で投資契約が交わされている。このうち1762件が着工された。投資額は2兆5000億人民元(40兆5000億円)になる。一方、却下したPPPプロジェクトは2148件(登録プロジェクトの27.2%)で投資予定額は合計2兆5000億人民元(40兆5000億円)だった。財務部は、無秩序な投資を抑制し、リスクをコントロールする立場を強調している」

 

登録プロジェクトのうち、27.2%(40兆5000億円)が不適正として却下されている。問題があると指摘されたプロジェクトは、PPP関連財政支出が地方政府予算の10%を上回る規模であること。また、過去1年間でプロジェクトに実質的な進展のないものなどだった。PPP方式は、欧州で広く採用されている。中国の場合、民間から強制的に資金を調達する便法にしているのでないか、という懸念がつきまとう。そうとすれば、一種の「税金」のようなものだろう。ここまでやって、GDPを押上げるという実態に目を向けるべきだ。

『サーチナ』(10月1日付)は、「リーマン・ショックから10年、高まる中国の金融リスクー大和総研調査」を掲載した。

 

(2)「BIS(国際決済銀行)統計によると、中国は、債務残高のGDP比が2008年末の141.3%から2017年末に255.7%へ急上昇した。この水準や上昇ペースの速さは、かつて金融危機に陥ったり、バランスシート調整による景気急減速を余儀なくされた国々に匹敵している」

 

中国の債務残高のGDP比は、2008年末の141.3%から2017年末には255.7%に急上昇している。この段階で、米中貿易戦争が始った。このデータから推測できることは、中国経済が厳しい局面に立たされることだ。

 

(3)「中国の債務問題を詳しく見るために、主体別債務残高のGDP比の推移を確認する。

①政府は2008年末の27.1%から2017年末に47.0%

②家計は17.9%48.4%

③非金融企業は96.3%160.3%

非金融企業の債務残高の8割程度は国有企業によるものとされ、本来であれば政府が負うべき債務を国有企業が肩代わりの可能性が高い。これを政府債務に準じると考えれば、

④中国の実質的な政府債務残高のGDP比は47.0%ではなく、175.2%(47.0%に160.3%の8割を足した数字)と、日本(212.3%)の債務構造に近いと見ることが可能である」

 

ここで、④政府債務残高のGDP比は、47.0%でなく、175.2%に跳ね上がっていることに注目していただきたい。これは、政府債務に国有企業の肩代わり分を加えた実質政府債務の対GDP比である。日本(212.3%)の債務構造に近いことが分る。中国経済の中味は、表面から受ける印象とかなり異なって劣化しているのだ。