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米国は、中国と関係が復活しない前提で戦略を組み直している。これに対応する準備が、中国にあるだろうか。習氏は、「先進国からこれまでのように先端技術が手にはいらないから自力更生」と言う程度である。そして、戦争の準備をせよときな臭いことを発言する短絡的な思考に溺れている。

 

私はかねてか、米国の先見性に舌を巻いてきた。米国は日米開戦を予期して、1911~12年に「オレンジ作戦」という名の準備を始めている。この前例から言えることは、いつでも「中国包囲網」が敷かれて不思議はなかったことである。今、ついに始った。

 

『ロイター』(10月5日付)は、「中国との貿易協定阻止、日欧にも条項盛り込む可能性―米商務長官」と題する記事を掲載した。内容を要約すると、次のようなる。

 

新NAFTA(名称を改称してUSMCA)の目玉には、中国との貿易協定締結を阻止する『毒薬条項(ポイズンピル)』があることだ。米国が今後、締結を見込む日本や欧州連合(EU)との貿易協定に取り入れる可能性がある。その米側根拠は、米国という世界最高の市場にリンクする以上、米国の安全保障を害する中国と絶縁せよ、という要求である。これによって、米国を中心とする「貿易同盟」を結成する狙いである。中国は、米国をしてここまで決意させた自らの蛮行に反省が必要だろう。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月5日付)は、「NAFTAが見本、米国が狙う日欧との貿易協定」と題する記事を掲載した。

 

米国は、新NAFTA(USMCA)の交渉過程で、通商の「パラダイムシフトのモデル」を確立したと自信を深めている。①外国為替、②労働市場、③貿易相手国の対中ビジネスのあり方まで、全てに関する規則を見直す構えである。要するに、「市場経済国」に合致するルールを確立した国とだけ貿易協定を結ぶ。ここで、重要なのは、中国と貿易協定を結ぶなという項目である。米国は、中国を利するような国と貿易協定を結ばない、という根本姿勢を貫く。中国は、米国の「天敵」の存在に成り下がった。中国の口癖である「世界の二大強国」という扱いでなくなった。中国に代って、日本とEUが米国と協力する世界秩序の形成であろう。

 

(7)「米国は、自国政府が創設に貢献した世界貿易機関(WTO)と衝突することをさほど気に掛けなくなりそうだ。その代わり、世界貿易をゆがめている国々(当局者らの言う「非市場」経済国)に諸協定をもって挑むことに力を入れるだろう。それに米政府は、貿易協定が米企業向けの世界的なサプライチェーンを育む方法だとは考えなくなるだろう。それよりも、製造業の米国回帰をさらに促すべく、米国へのモノの輸入の基準を厳しくすることを優先するとみられる」

 

米国はこれまで、中国を世界のサプライチェーンに組入れ、ともに経済発展するという理想を掲げてきた。その結果、中国の民主化を実現して世界の安寧を保障する。米国のこの理想論は、中国の謀反(米覇権打倒論)によって崩れた。ならば、米国は中国を排除し、「強い米国」の経済力によって世界の安泰を取り戻す。現在の米国が、40年ぶりの政策大転換を図る背景はこれだ。中国宥和論が、米国の仇になったのだ。

 

米国が中国に抱く怒りはかって、日本が満州へ進出し「反米」を鮮明にしたときの怒りと同じであろう。日本の運命は、これによって暗転した。戦争によって、多くの犠牲者が出る悲劇を生んだのである。

 

(8)「根底にある理念は、ドナルド・トランプ大統領自身が今週NAFTA改定合意を発表した際に述べたのと同じ。貿易相手国は『われわれとビジネスをすることを特権』とみなすべきだというものだ。知的財産の保護から賃金引き上げに至るまで、米国の規則や基準を受け入れるか否かで同国市場へのアクセスが決まる傾向は一段と強まるだろう」

 

米国との貿易は、米国の築き上げた市場を活用する一種の「特権行使」である。誰も、不思議に思わずにきたが、指摘されてみれば間違いない。米国は、この米国とビジネスをする以上、相手国も市場経済ルールを守らなければ不公平である。中国のように、自国は保護主義で企業を守り、米国の自由市場を利用して莫大な利益を上げる。これは、アンフェアー(汚い奴)なこと。米国は、それを許さないと言明したのだ。米国は、市場ルールを守る国としか貿易をしないと発言している。

 

ここまで、米国の主張が明確になると、「米国一国主義」という批判は困難だ。米国市場を開放状態にさせるには、相手国もまた自由ルールを守らなければならない。ここで、ふと頭に浮かんだのは、マックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』である。市場は、売り方=買い方が対等な立場で初めて成立する。こういう原点から見ると、現在の米国の主張はヴェーバー流と言える。

 

米国は、対日本、対EUとの間に結びたい貿易協定では、USMCAに挿入した「毒薬条項(ポイズンピル)」を活用する方針だ。日本とEUに対して、中国と貿易協定を結ぶなと要求する方針である。その際に持出すのが、「自動車関税率25%」である。日欧が最も嫌う項目を交渉の道具に使うのだ。米国の凄さはここにある。狙った獲物は絶対に逃がさない。これが、トランプ式ディールなのだろう。