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文在寅大統領は学生時代、権力と戦った元学生運動家を大統領府に集めている。「人民民主主義」の信奉者である。1980年の光州事件の「戦友」だ。あれから幾星霜を経て、今や大統領府で権力の頂点に立っている。感無量であろう。この理想の地へ辿り着いた以上、いかなる批判を浴びても学生時代に掲げた理想の実現に邁進する。有り体に言えば、こういう心境であろう。

 

すでに、最低賃金の大幅引き上げも行なった。教科書も書換えさせた。南北首脳会談も3回開き、統一へのレールが出来はじめた。財閥企業にも労働組合を作らせた。文政権は就任1年半にもならないのにかくかくたる戦果を上げている。しかし、これが本当に韓国社会にとってプラスになるだろうか。

 

経済がガタガタになっても文政権が支持され続ける保証はどこにもないのだ。韓国左派にとって、最大の弱点は経済政策の失敗にある。「人民民主主義」では、経済を混乱させることが目的である。だから想定の範囲内のこととしても、左派でない人々にとっては迷惑千万な経済政策である。韓国大統領府は、このように異常な雰囲気に飲み込まれている。

 

『朝鮮日報』(8月8日付)は、「韓国大統領府の元活動家重用は度が過ぎる」と題する社説を掲げた。

 

(4)「文在寅(ムン・ジェイン)大統領が8月6日に行った韓国大統領府秘書室、政策室の1級以上秘書官人事で、スタッフの6人中5人が運動圏と呼ばれる左翼系の元学生運動活動家で占められるようになった。今回の秘書官人事は、全国大学生代表者協議会(全大協)など運動圏や市民団体出身者が昨年末の17人から2人増えて19人となり、率にすると61%に達した」

 

文氏は、自らの「イエスマン」を側近に集めている。韓国の政治システムでは、大統領府に権力が集中する。日本のように各省庁が責任を持って行政を司るシステムではない。絶大な権力を握る大統領府は、秘書官の6割が「元学生運動家上がり」が占領している。韓国をどこへ引っ張ってゆくのか。それは、北朝鮮社会と同じ「人民民主主義」であることは間違いないだろう。彼らが、学生時代に信じていた思想は「金日成主義」であったからだ。

 

(5)「大統領府スタッフに、大統領と考え方が近い人物が就任するのはある意味自然なことだ。現政権ほど、大統領府スタッフに特定の集団出身者が多数を占めるようなケースはこれまでなかった。文大統領は先日行われた新任の大法官(最高裁判所裁判官に相当)任命状授与式で、『大法官の顔触れは多様性が確保されなければならない』と述べた。ところが大統領府のスタッフはもはや完全に左翼活動家ばかりとなりつつある。大統領の側近が運動圏出身者で占められ、彼らが大統領府を掌握すれば、国政におけるバランスは完全に失われてしまうだろう。バランスが崩壊すれば国政そのものが完全に暴走してしまうのではないか」

 

大統領府の秘書官人事構成を見れば、文大統領が何を目指しているかは明らかだ。最低賃金の大幅引き上げは、韓国労組の強い突き上げによって実現したものだ。すでに、最低賃金引き上げは破綻しており、失業率は4%と金融危機時並みの悪化である。その対応策と言えば、財政資金の投入だけである。大本の最賃政策の手直しには一切、応じないという強硬姿勢である。切開手術(最賃政策の手直し)には手を付けず、対症療法(財政資金投入)策によって糊塗しているのだ。これは、政策発案者を擁護するカムフラージュである。身内を守るのが文式の人事であり、「信賞必罰」など薬にしたくてもない政権である。

 

『中央日報』(8月23日付)は、「文在寅経済の残忍な逆説」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のパク・ボギュン/コラムニスト/論説委員である。

 

6)「文政権は、『ろうそく勢力(注:朴槿惠大統領弾劾請願デモ)・市民団体・労働組合』が現政権創出の大株主という意識を抱いている。文大統領がその勢力に借りがあるという意識から抜け出してこそ、実事求是の革新成長に進むことができる。似た性向で構成された集団は排他的だ。偏向と極端に向かう。大統領府の核心勢力は公務員を信じない。政策修正の拒否はそのような意識による。大統領府の肥大化はそのような軽蔑を反映する。大統領府の経済責任者は政策室長、経済補佐官、雇用首席秘書官、経済首席秘書官、社会首席秘書官だ。そのような膨張と布陣は集中と簡潔の原則から外れる。『経済担当首席秘書官がなぜこれほど多いのか。政策の核心は雇用だが、別々に分けるのは間違っている』と指摘する人は述べた」

 

このパラグラフでは、大統領府の秘書官の6割が学生運動家上がりという同質性がもたらすリスクを指摘している。そのリスクは次のようなものだ。

   似た者同士の性向で構成された集団は排他的だ。偏向と極端に向かう。

   大統領府の核心勢力は公務員を信じない。政策修正の拒否はそのような意識による。

   大統領府の肥大化は公務員軽蔑を反映する。

 

要するに、学生運動家上がりの大統領府集団は、偏向・孤立・軽蔑という最悪集団に化する危険性を秘めている。これは、韓国政治の危機である。