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中国は、米国の関税引き上げを民族問題にすり替えている。米国は、中国の「中国製造業2025」計画を妨害するために関税を引き上げて、不法な圧迫を加えていると喧伝している。中国がWTOに違反している事実に一切触れず、ひたすら米国を悪者に仕立てあげるという宣伝工作を繰り広げている。

 

この手法は、北朝鮮と全く同じである。彼らは、核開発が国連決議に違反していることを棚に上げ、「米帝国主義は、わが共和国を滅亡させる策略を張り巡らしている」と騒ぎ立ててきた。中国政府もこの理屈で逃げまくる方針であろう。そして、この戦略を見事なまでに代弁するコラムが登場した

 

『ロイター』(9月18日付)は、「トランプ関税攻撃、中国の致命傷にならない訳」と題するコラムを掲載した。筆者は、David A. Andelman氏だ。米紙『ニューヨーク・タイムズ』や米CBSテレビの元特派員である。中国在住。

 

(5)「トランプ米大統領が仕掛けてくるいかなる関税戦争に対しても、中国は勝利を収める準備が万端整っている。その戦略はいたってシンプルで『独裁資本主義』という同国の伝統に集約される。中国が効果的に取り入れている独裁資本主義は、トランプ大統領が、自国に勝利をもたらすような経済的苦痛を中国に与えることを困難にさせるだろう。米政権内ではほとんど、あるいは全く注目されていないが、目からうろこが落ちる瞬間にたどり着く重要な要素がいくつかある」

 

のっけから批判して恐縮だが、この筆者は、経済担当記者の経験がゼロのようだ。多分、政治部記者であったと思われる分析手法である。冒頭から、筆者は中国が「独裁資本主義」と言っている。先ずこの用語法が間違えている。資本主義の精神は、ドイツ社会学者マックスヴェーバーが主著『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で説いたように、市場経済=民主主義を基盤とする経済システムである。それ故、独裁と資本主義は結びつかない。

 

独裁資本主義はまた、WTOルールに反していることである。中国が、独裁資本主義という計画経済を捨てられなければ、WTOから脱退する必要がある。オオカミ(中国)が兎(WTO)の中に混じって、弱肉強食することは許されない。欧米日が協力してWTO改革を目指している意義は、オオカミの存在を許さない点にある。ここを誤解して、中国のトランプに負けないという議論は成立しない暴論である。

 

(6)「筆者自身にそのような瞬間が起きたのは、自宅キッチンにある新しい用具を調べていたときだ。『中国が関税を発動する前にこのハイアール製レンジを買い換えた方がいいかな』と、電化製品のセールスマンに聞いた。すると、彼は心配無用だと笑って答えた。ハイアールは値上げしないと保証したというのだ。クリスタル・ソーラーの最高財務責任者(CFO)を務めるデービッド・ボストウィック氏は、それこそまさに中国が、米国の太陽光パネル市場に拠点を築いたやり方だと指摘した。価格を下げ、米国の太陽光パネル産業を骨抜きにした『価格を2割下げれば、中国人は支障なく米国で製品を売り続けることが可能だ』と同氏は言う」

 

販売価格引き下げは、政府の補助金を得て行なってならない。これが、WTO原則である。中国は、スマホでも政府補助金が出て生産コストを切下げた。これが、サムスンが中国で競争力を失った原因である。このように、WTO違反を重ねているのだ。ハイアール製レンジも政府補助金がつくことを暗に臭わせている。中国は、抜け穴探しが得意で、ルールを守る遵法精神ゼロの国である。

 

(7)「中国は長年、経済成長を促進するため輸出に依存する経済からの脱却を図ってきた。そうした政策はうまくいっている。世界的なリセッション(景気後退)の真っただ中だった2009年を除き、国内総生産(GDP)に占める輸出の割合は過去10年、毎年低下している。輸出部門の割合は昨年18.5%を占めるにすぎず、2007年の35%と比べて大幅に低下した。また、昨年の対米輸出は全体のわずか18%にすぎなかった」

 

輸出依存度が下がっていることは事実だ。これは、インフラ投資依存度の高まりを反映したに過ぎない。実は、中国の貿易黒字幅が低下している。経常収支黒字が風前の灯火になっている。米中貿易戦争を想定していない段階で、今年は1000億ドル、来年は500億ドル程度に落込むとの予測が出ていた。この調子では、経常収支赤字という最悪事態も予想される。その場合、人民元相場は1ドル=7元を割り込み、為替投機が発生する。この筆者は、こういう事態が、目の前に来ていることを知らないで太平楽なことを言って、楽しんでいる風に見える。貿易戦争が始まった以上、経常収支赤字は時間の問題になってきた。