勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    米国政府は、ロシアの凍結資産3000億ドル(約42兆3600億円)相当を接収する方策について、主要7カ国(G7)の作業グループで検討するよう提案したと英紙『フィナンシャル・タイムズ』(FT)が28日報じた。米国は、ロシアによるウクライナ侵攻から2年の節目となる来年2月24日に間に合うよう合意を急いでいるという。

     

    事情に詳しい複数の関係者がFTに語ったところでは、12月開かれたG7財務相のオンライン会合で協議されたが、決定には至っていない。FTによれば、欧州各国で引き続き活発に検討され、ウクライナ支援への活用に向け、ロシア資産接収に向けた作業が加速している。西側にとって、その重要性が増す状況を浮き彫りにすると同紙は伝えた。

     

    米国政府が、ロシアの凍結資産の接収について結論を急いでいるのは、米議会で共和党がウクライナ支援を渋っていることと関係があろう。共和党は、来秋の大統領選でバイデン大統領を破るためには、ウクライナ侵攻でロシアの勝利が打撃を与えられるという近視眼的な対応を始めているからだ。こういう事態を見据えて、米国政府は苦肉の策に出ている。

     

    『フィナンシャル・タイム』(12月13日付)は、「米共和党で広がるプーチン支持の影」と題する記事を掲載した。

     

    米国の外交政策において、ウクライナを巡る問題ほど議論の流れが大きく変わった例はあまりない。1年前にはロシアを分割し、プーチン大統領を戦争犯罪で裁くべきだと議論していた。ところが米議会は今、ウクライナ支援を継続すべきかどうかで分かれ、紛糾している。米政府はウクライナがロシアの手に落ち、それにより西ヨーロッパがロシアの脅威にさらされるようになるのではないかとのリスクにおびえている。

     

    (1)「客観的に分析すると、ロシアのウクライナ侵攻による地上戦は、西側諸国がウクライナ支援を継続できなければプーチン氏に有利に傾くことは明らかだ。プーチン氏は今、米国の「ウクライナ支援疲れ」につけ込み、同国のもう片方の腕をも無力化しようとしている。それは、ここへきて米国内でかつてないほど存在感を増しているプーチン氏に好感をもつ、あるいは共感する人々の力を活用しようという目論見だ。共和党は強力なウクライナ支持派と、孤立主義とあからさまなプーチン信奉者がない交ぜとなった勢力に二分している」

     

     

    共和党内には、プーチン支持派が増えているという。目的は、バイデン大統領を窮地に追込むことである。

     

    (2)「ウクライナ支援に反対する主張のほとんどは精査すれば根拠に欠けることがわかる。米国からの支援金の大半は米国内での兵器製造に使われており、ウクライナに直接投入されるわけではない。ウクライナへの支援額は米連邦予算の1%にも満たない。金融支援としてウクライナ政府に送られる米ドルは厳しい監査を受けており、大型ヨットの代金などに使われることは決してない。また米国がウクライナで実際に戦っているわけではないので、米市民の間でウクライナ戦争に対する疲労感が生じているということもほぼない」

     

    ウクライナへの支援額は、米連邦予算の1%にも満たない金額である。それでも、共和党の一部は、バイデン大統領を困らせて大統領選で共和党の勝利に導こうという狙いであるという。

     

    (3)「よく耳にするのは、ウクライナ支援に1ドル支出するたびに台湾防衛のための資金が1ドル減るという議論だ。だが、実際はその正反対に近い。中国とロシアは「制限なき」協力関係を結んでおり、米国の弱体化を狙っている。それを達成するための最も効果的な取り組みはロシアがウクライナ戦争で勝利することだ。そうなれば北大西洋条約機構(NATO)の士気が下がり、欧州の穀倉地帯はロシアの手に落ちるだろう。軍事戦略家が100年以上前から指摘してきたように「ウクライナを制する者がユーラシアを制す」ということになるのだ。むしろ、米国がウクライナに兵器を送るたびにロシアはウクライナ戦争に勝つことが難しくなるわけで、そのことは中国に台湾問題について熟考させることにつながる

     

    ロシアがウクライナで勝利を収めることは、中国の台湾侵攻を促す口実になる。こういう関連性を共和党議員は、理解していないようである。

     

    (4)「なぜ、プーチン支持者がここまで米共和党内に広がるのだろうか。それはプーチン氏がバイデン氏の敵だからだ。「敵の敵は自分の味方」ということで、それ以上複雑な事情はない。米国の極右勢力には純粋にプーチン氏を支持する人もいるが、プーチンの肩を持つ大多数はトランプ米前大統領のような現金な日和見主義者だ。つまり、「バイデン氏にとって悪いことは共和党にとってよいこと」であり、従ってウクライナが負ければ、それは共和党にとって喜ばしいことを意味する

     

    米共和党の一部が、プーチン氏の肩を持つのはバイデン大統領を困らせることが目的である。米国政府は、こういう共和党の動きを封じるべく、ロシアの接収資産3000億ドルを、戦費に充てる案を大急ぎでまとめようとしているのであろう。

     

     

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    米中対立が、台湾の対外投資に大きな影響を及ぼしている。台湾が、対中投資を減らしており、代わって対米投資を増やす事態になっている。23年は、台湾における対中投資と対米投資が完全に入れ替わる劇的な変化を見せた。中国にとって、甚だ不愉快な結果になっている。来年1月の台湾総統選では、親中の国民党候補を勝利させたいと焦っている背景である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月28日付)は、「台湾の対中投資1割に激減、23年 米国向けが初の逆転」題する記事を掲載した。

     

    台湾の対中投資が2023年に大きく減った。工場の新設や買収など対外直接投資に占める中国向けの比率は2010年のピーク時に8割強に上ったが、23年は1割強に激減する見通しだ。米国向けは前年の9倍に膨らみ、投資先で初めて米中が逆転する。

     

    (1)「台湾の中国向け投資が激減した背景には、中国経済減速の影響に加え、長年の政治問題を中台の双方が棚上げしきれなくなったことがある。米中対立が本格化して以降、米国が中国製品に制裁関税を課すなど、台湾企業は中国大陸でのビジネスにやりにくさを感じるようになった。米国寄りで対中強硬路線の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統率いる与党・民主進歩党(民進党)政権も、経済の「脱・中国依存」を掲げた。中国から台湾に生産を回帰する企業に優遇策を設け、中国離れが徐々に進んだ」

     

    中国にとって、最も身近である台湾の対外投資が激減している事態は深刻である。中国の対内投資(FDI)全体が、これから激変する前兆とみるべきであろう。

     

    (2)「台湾の経済部(経済省)の調べによると、台湾の対外直接投資(認可ベース)は1〜11月、前年同期比87%増の257億ドル(約3兆6000億円)と大きく増えた。半面、中国向けは29億ドルと34%減少し、全体に占める比率は12%にとどまった。中台が自由貿易協定(FTA)に相当する経済協力枠組み協定(ECFA)を結んだ10年には、対中投資が84%と過去最高を記録した。減少傾向にあった昨年も34%を確保しており、23年の落ち込みが際立つ。過去30年間でも1999年に記録した28%が最低で、今年はその半分以下の低水準となる。金額ベースでも大幅に減る。台湾の対中投資のピークは10年の146億ドルだが、23年はその4部の1程度となる見通しだ

     

    台湾の対中投資のピークは2010年の146億ドルである。これに比べると、23年は4分の1程度となる見通しだ。急減状態である。中国にとっては、台湾総統選で野党国民党候補を勝たせて、台湾の対中投資を復活させたという狙いもあろう。

     

    (3)「中国に代わって急増するのが欧米向けの投資だ。1〜11月の米国への直接投資は前年同期比9倍の96億ドルで全体の37%を占めた。ドイツ向けも25倍の39億ドル(15%)と対中を上回る。台湾積体電路製造(TSMC)の工場建設など半導体関連の投資がけん引する。23年は通年で対米投資が対中の約3倍の規模となる見込み。台湾が中国への直接投資を解禁した93年以降で初めて米中が逆転する

     

    台湾は、欧米向け投資を増やしている。半導体投資が主体であろうから、増加するのは当然である。この流れは、もはや逆転不可能であろう。

     

    (4)「対立するのは政治だけでなく、経済でも関係の見直しが顕著になってきた。中国の習近平(シー・ジンピン)政権は、台湾への統一圧力を急速に強めている。反発する蔡政権を打倒するため、これまで控えていた経済面にも踏み込んだ。21年以降に特に顕著になり、台湾企業が中国市場を主力としたパイナップルなどを次々と輸入禁止にし、蔡政権に揺さぶりをかけた。今年8月には、台湾が対中輸入規制を設ける農産品や工業製品など2509品目全てを調査し、台湾への関税優遇の停止をちらつかせた。実際、212月21日には化学物質など12品目について、24年1月から関税引き下げの優遇措置を停止すると発表した。経済成長を優先し、中台が足並みをそろえていた時代は終わりつつある」

     

    中国による台湾への経済制裁は、逆効果になっている。台湾は、いやおうなく代替市場を探さねばならない。その過程で新規投資も始まるのだ。中国は、自ら台湾を他国市場へ向けさせている面もある。

     

    (5)「台湾は、2024年1月に総統選を控える。各種の支持率調査でリードする民進党候補の頼清徳・副総統は経済の「脱・中国依存」を促す蔡政権の路線を引き継ぐ。最大野党・国民党候補の侯友宜・新北市長は中国との経済関係の再強化を訴える。もっとも、中国経済は低迷を続け、ハイテク製品を巡る米中対立にも改善の兆しはない。総統選でどの候補が勝利しても、対中投資がすぐに戻る可能性は低い。民間大手シンクタンク、台湾経済研究院の孫明徳主任は「米中対立が続く限り、台湾の対中投資は低下を続けるのがメインシナリオだ」と指摘する

     

    米中対立がある限り、台湾の対中投資は低下し続ける。これが、結論である。

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    日本が、かつての栄光を求めて半導体投資へ向けて積極化している。台湾の1位・3位の半導体メーカーが、日本で工場建設するほどだ。日本の国策半導体企業「ラピダス」も、北海道で工場建設に着手した。27年には、2ナノ(10億分の1メートル)の超先端半導体を量産化する予定である。ラピダスには、毎月100人もの応募者が詰めかけているという。国内の半導体技術者が「集結」している感じだ。 

    韓国は、こういう日本の状況を見て10年以内に逆転されるという見方すら出てきた。日本政府による積極的に補助金政策が、製造コストを引下げることで、韓国半導体より優位にたつという理由である。 

    『東亜日報』(12月26日付)は、「韓国より価格競争力の高い日本の半導体工場、近い内に現実になる」と題する社説を掲載した。 

    米国や台湾の半導体企業が日本に建設中の工場が予想より高い価格競争力を備えるだろうという見方が出ている。日本政府が韓国などに奪われた半導体の主導権を取り戻すために、これら企業に莫大な補助金を支援するからだ。韓国の支援策は相対的に劣勢であり、10年以内に日本の半導体産業が再び韓国を追い抜くという観測まで出ている。

    (1)「半導体受託生産最大手のTSMC(台湾積体電路製造)は、日本のソニーなどと合弁で、来年2月の竣工を目標に日本の熊本県にファウンドリー工場を建設している。設備投資額1兆円(約9兆14000億ウォン)の41%を日本政府から補助金として受け取る。「10年以上工場を稼働させ、供給が不足した時は日本に先に提供する」という条件さえ満たせばいい。これにより、日本で生産されるTSMCシステム半導体の価格競争力が10%高くなるという」 

    非メモリー半導体のTSMC熊本工場は、予定よりも繰り上がって来年2月に竣工する。半導体工場建設では、世界最速とTSMCは説明している。1日も早い操業を目指す。TSMCは、日本政府の補助金で生産コストが10%引下げられる見通しとされている。 

    TSMCは、報道によれば第2・第3・第4工場を九州で建設する。台湾半導体3位のメモリー半導体製造のPSMC(力晶積成電子製造)も、宮城県で工場建設計画を発表した。PSMCは、自動車用半導体を主体とする。

     

    台湾半導体が、相次いで日本進出を果すのは、台湾が既に立地上で半導体工場増設余地のない結果である。半導体生産には、膨大な電力エネルギーと水資源が必要である。だが、台湾はすでに限界に達している。これ以上、台湾で事業を拡大し続けるのは不可能で、二酸化炭素排出量を減らすという世界的な取り組みにも反する事態になっている。こういう立地上の制約により、半導体工場の増設は不可能とみられる。となれば、制約状況の少ない日本が、最適な半導体生産基地になる。TSMCの熊本工場は、阿蘇山の麓で水資源が豊富である。PSMCの宮城工場も水運に恵まれている。 

    (2)「米半導体企業のマイクロンテクノロジーも、日本の広島県に次世代Dラム半導体工場を建設している。三星電子、SKハイニックスに次ぐ世界第3位のDラム半導体企業だ。5000億円(約4兆5700億ウォン)を投資する計画だが、日本政府は39%を補助金として返還することを決めた。補助金効果により同工場で生産されるDラムの価格競争力が5~7%高くなる見込みだ」 

    米半導体企業のマイクロンテクノロジーは、広島で次世代Dラム半導体工場を建設している。日本政府の補助金でコストは、5~7%引下げられるという。

     

    (3)「技術格差がわずか数ヵ月に過ぎない半導体トップ企業の間で5~10%の価格競争力の差は勝敗を分ける決め手となる。その分価格を下げることも、より多くの利益を得ることもできるからだ。第1工場が稼動していないにもかかわらず、TSMCが日本に第2、第3工場を設立する計画を明らかにしたのもこのような計算があるからだろう。ファウンドリー2位としてTSMCを追いかけている三星(サムスン)電子としては不利な状況になった」 

    半導体企業に技術格差は、タッチの差(約数ヶ月)とされる。それだけに、生産コストの引下げが決定的な「勝負どころ」となる。日本政府の補助金が、日本進出の半導体企業を有利にさせるのだ。 

    (4)「日本政府が、プライドを曲げてまで外国企業の工場建設に自国民の税金を注ぎ込むのは、半導体復活のためにやむを得ないと判断したからだ。日本政府は、半導体復活を目指して自国企業が手を組んで設立したファウンドリー企業のラピダスにも毎年3000億円の支援金を出している」 

    日本政府は、国策半導体企業ラピダスへも毎年、3000億円の補助金を出す。これが、ラピダスの立ち上がりを容易にする。販売面では、米国IBMも協力体制を敷いている。

     

    (5)「これに比べ、韓国政府が半導体企業の設備投資を促すために支援する恩恵は、法人税を引き下げる程度だ。「キャッシュバック」の形で企業に返す補助金は皆無な状況。日本だけでなく、米国、欧州連合(EU)、中国、インドなど主要国では、企業ではなく政府が半導体戦争の全面に乗り出している。海外で韓国企業がこれらの国を相手に寂しく戦うような放置をしてはならない。 

    韓国政府の半導体企業への支援は、法人税率の引下げ程度である。補助金はゼロである。これでは、日本の半導体にコスト面で敗れるリスクが高まっているという。日本の半導体産業が、10年以内に韓国を追い抜くという悲観論の出ている背景だ。

    次の記事もご参考に。

    2023-12-18

    メルマガ525号 日本、半導体で世界トップへ潜在力 台湾が水資源で限界「国内で拡張へ

     

     

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    中国は、旧世代半導体で世界シェアの過半を占める構想をすすめている。最先端半導体は、米国の技術輸出禁止措置で製造不可能なため、旧世代半導体で世界を席巻しようという戦略である。だが、米国は旧世代半導体でも中国からの輸入によってサプライチェーンに混乱をもたらすとして、さらに関税引上げ(現在25%)を検討している。

     

    この関税引上げが実現すると、中国の戦略には大きな狂いが生じるので、半導体不況の際は深刻な影響を及ぼしそうである。

     

    日本経済新聞 電子版』(12月27日付)は、半導体株 途切れぬ中国需要の恩恵 工場新設30カ所超」と題する記事を掲載した。

     

    中国の半導体国産化が日本株の息の長い投資テーマになる可能性がある。工場の建設計画は30を上回り、新規の資金調達も盛んだ。東京エレクトロンなど売上高に占める中国比率が4割を超える企業も多く、追い風が途切れないシナリオが現実味を帯びる。

     

    (1)「13日、東京ビッグサイト(東京・江東)ではそこかしこから中国語が聞こえた。半導体の国際展示会「セミコン・ジャパン」を訪れたバイヤー、リサーチャーたちだ。深圳から来たという男性の2人組は「中国に拠点を持たない中堅・中小企業を視察に来た」と話す。時間をかけて見ていたのは、成熟技術と呼ばれる旧世代品の露光装置メーカーだ。上海の大学からの一団は「日本の状況を報告書にまとめたい」と語るだけだった」

     

    中国は、米国の先端半導体技術の輸出規制を受けているので、旧世代品の半導体増産によって、世界レガシー半導体市場で支配権を握る狙いだ。

     

    (2)「供給網のデリスキング(リスク軽減)を進めているのは中国も同様だ。だが、国産化の道のりは遠い。HSBCグローバル・リサーチのフランク・ホー氏は、「エンジニアリング力を含めた(世界との)格差を縮めるには何年もかかる」と指摘する。しばらくの間は米国の制裁をかいくぐり、製造装置や部材を手当てするしかない。中国には半導体工場が44カ所あり、さらに32カ所が建設または計画中――。台湾の調査会社トレンドフォースは11月、このようなリポートをまとめた。国産化の歩みと足元のギャップは、日本企業の商機になりうる

     

    中国は、すでに半導体工場が44カ所もあるが、さらに32カ所の増設を予定している。レガシー半導体市場での支配権確立意思は明確である。

     

    (3)「中芯国際集成電路製造(SMIC)は、上海や北京、天津、深圳で工場建設の計画が進んでいるもようだ。2023年の投資計画は75億ドル(1兆600億円)にのぼる。華為技術(ファーウェイ)のスマートフォンに回路線幅7ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体を供給したとの観測でも話題になった。半導体国産化の先兵だ。資金面の裏付けもある。安徽省合肥市の長鑫新橋存儲技術はこのほど390億元(7800億円)を調達したとされる。出資したのは国家ファンドだ。ファーウェイが政府から多額の資金援助を受け取り、他社名義で複数の半導体工場を建設しようとしているとの指摘もある

     

    米商務省によると、中国政府は過去10年間で約1500億㌦(約21兆円)を国内半導体産業に補助金として提供した。米政府には、このまま放置すれば巨額補助金を背景にした安い中国製品によって米国の国内産業が壊滅的な打撃を受けるとの危機感がある。中国の半導体企業は、旧式の装備・技術で世界半導体市場の75%を占める20ナノ級以上の旧式半導体市場を攻略しているので、2、3年以内に世界の旧型半導体市場の半分が、中国製で満たされるという見通しまで出ている。

     

    米国は、すでに中国から輸入する半導体に25%の制裁関税をかけている。高関税の障壁があってもなお安価な中国製品の競争力は高く、米国の自動車や防衛、交通インフラ産業に浸透している。この結果、一段の関税引き上げによって、米企業に中国以外からの調達を促す構えだ。これが実行すると、大増産体制の中国製半導体は輸出先を失うことになろう。

     

    (4)「KPMG FASの岡本准パートナーは「中国は国家ファンドで6400億元の資金を供給するほか、1兆元を追加するとの報道がある」と話す。中国を動かすのは経済合理性だけではない。習近平(シー・ジンピン)国家主席が重視する「国家安全」という概念だ。

    23年79月期、東エレクやSCREENホールディングス、ディスコの半導体事業に占める中国比率は35割に達した。米アプライドマテリアルズや蘭ASMLも似た状況だ。半導体の国際団体SEMIによると、製造装置の市場規模は25年に過去最高の1240億ドルに達する。10年前の3倍の水準だ」

     

    米国が、中国製半導体に対して現在の関税25%に加えて、新たに引上げるとなれば世界の半導体市況に異変が起ころう。世界の半導体市況は現在、メモリーの値上がりの波が広がっている。代表的なDRAMは11月の価格が2年5カ月ぶりに上昇した。買い手となるデバイスメーカー側には、先高観から先行して手当てする動きもあるほど。こうして、2024年の半導体市況は好転する見通しが強まっている。だが、この出鼻を叩くように米国が中国製半導体への関税再引上げを行えば、どのような反応が出るか注目すべきだろう。

     

     

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    中国は、金融政策で不良債権処理を行う方針を露骨に見せている。中央銀行である人民銀行総裁は、共産党内の序列が国有銀行トップよりも低いという異常な状況にある。人民銀行は、共産党の「ATM」扱いだ。共産党が、赤字企業への融資を自由に行わせる意図を人民銀行へ見せつけているのだ。 

    『フィナンシャル・タイム』(12月25日付)は、「中国人民銀 影響力が急低下 監督・監視は政府管轄に」と題する記事を掲載した。 

    金融規制における共産党による中央集権体制の強化が進む中国で、かつて強大な権限を持った中国人民銀行(中央銀行)の影響力が低下している。政府が国の成長モデルを見直すなか、人民銀が以前持っていた権限の一部は党の監視機関と刷新された金融規制当局に引き継がれている。

     

    (1)「中銀は現在も日々の金融市場では重要な役割を果たしている。しかし、中銀総裁は今や党の序列において、人民銀がかつて規制していた一部銀行のトップよりも格下になった。アナリストによると、この変化は習近平(シー・ジンピン)国家主席の下で進められた組織改革に伴うもの。国の政策立案での人民銀の影響力だけでなく、世界の規制当局や市場とのコミュニケーションの窓口としての役割も縮小する。中銀は脇へ追いやられている。中国政府は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)後の鈍い経済成長や不動産業界と地方政府を襲う深刻な債務危機への対応に追われている 

    国有銀行トップは、共産党中央委員会メンバーに名を連ねている。だが、人民銀行総裁の潘氏は中央委員会メンバーでなく「格下」である。銀行を監督する人民銀行総裁が、国有銀行よりも党内地位が下であることが、中国金融政策の弱体化を示している。 

    (2)「人民銀の総裁に新たに就任した潘功勝氏を含む中国の金融規制当局のトップと最近面会したある外国の学者は、「特に人民銀は、借り入れに依存した投資で成長をてこ入れする旧来のやり方に戻ることに関して、非常に慎重だった」と語る。人民銀は以前から中国国務院(内閣に相当)の下に置かれていたが、金融問題に関しては、自らの権限を確立していた。中国の政策立案の場では人材の宝庫と見なされており、過去30年にわたって人民銀の実務官僚は金融規制の政策形成で重要な役割を担ってきた

     

    過去30年間の中国の金融政策は、金融規制など政策面で重要な役割を果してきた。だが、現在の中国経済は、不良債権の山に埋もれており、正常な金融規制議論が成り立たないほどの混迷に陥っているのだ。「理屈は要らない。ATMのように企業へ貸出せ」と迫っているに違いない。ロシア中央銀行は、未だ正常化意識を持っている。政府と異なる姿勢で金融政策を行っているのだ。中国は、そういう余裕すら失っているのであろう。 

    (3)「今年3月には、中国政府は金融業を監督する「中央金融委員会」を設立、中央銀行を事実上その管轄下に置いた。同委員会は、100人近い職員を抱える共産党主導の組織だ。同委員会は人民銀のトップ人事について発言権を持っており、中央政府において経済・金融分野で強い権限を持つ何立峰(ハァ・リーファン)副首相が弁公室主任として委員会の運営・管理を担当している。政府発表によると、何氏の直属の上司で、同委員会の正式なトップを務めるのは李強(リー・チャン)首相。李氏は中国の経済・金融問題を担当する党の最高幹部だ。中国政府は証券業界以外のすべての金融活動を監督する組織として、従来の銀行・保険規制当局よりも強力な「国家金融監督管理総局」を新たに設置した」 

    西側諸国の金融常識では、中央銀行が政治的に独立していることで安定した経済を維持できるとしている。政治の思惑を離れて、国民生活をインフレから守るという目的である。中国は、全く逆のことを始めている。デフレ状況で物価上昇はあり得ないという判断であろう。

     

    (4)「金融監督・管理の行政担当者が一新されるなか、今年8月、中銀での経験が豊富な潘氏が、人民銀の総裁および共産党委員会書記に任命された。多くの中国政府高官が定年退職する60歳直前での中銀総裁就任は予想外の人事だった。人民銀で働く関係者によると、同氏が指名されたのは直前で、中銀内部の多くの人が驚いたという。拙速で場当たり的人事とも受け止められた。状況を知る4人の関係者によると、総裁の下では、市場志向の改革に前向きな人物を含め、一部の顧問や調査部門トップが辞任するか左遷されたという」 

    人民銀総裁の潘氏は、異例にも定年直前の就任であった。狙いは、行内の市場志向派の人物を辞任・左遷させる「首切り役」であった。 

    (5)「中国工商銀行の廖林氏や中国農業銀行の谷澍氏、中国人寿保険の蔡希良氏といった一部国有銀行の会長も今、共産党の序列で潘氏より格上になった。こうした銀行幹部が全員、共産党中央委員会に入っているのに対し、潘氏は各行の通常業務を事実上監督する立場であるにもかかわらず、中央委員会のメンバーになっていない。中国の組織における序列の重要性を考えると、潘氏は中国の金融問題の長期的な計画策定で以前ほどの影響力がない立場になる。アナリストらは、人民銀は今後、政策をつくるのではなく、ただ政策を実施するだけの組織になるかもしれないと話している。潘氏に最近会った外国の学者は、中国の中銀関係者は自国の経済的課題を「十分に認識」しているものの、過剰債務と人民元の弱さのために、刺激策として金融政策を動員する余地は小さいと考えていると語った」 

    人民銀総裁は、もはや「お飾り」に過ぎなくなった。過剰債務と人民元の弱さで、金融政策発動の機会がなくなっているからだ。中国経済は、末期的状況に追込まれている。

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