勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。


    日本の内閣府が、半年ごとに分析する「世界経済の潮流(世界経済報告)」は興味深いデータを示している。GDPに対する債務残高の比率の長期的な傾向から、中国とカナダに「留意が必要」と警鐘を鳴らしている。だが、その中の一枚のグラフによって、習近平氏がバブルを利用してGDPを押上げていた、動かせぬ証拠が見つけられるはずだ。

     

    『SankeiBiz』(8月20日付)は、「中国・カナダの債務拡大に危機感、内閣府が警鐘 」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「国際決済銀行(BIS)の早期警戒指標を用いて、民間債務のうちリーマン・ショック後も高止まりしている家計と企業の非金融部門のリスク動向を点検している。BISは、主要国のGDPに対する民間非金融部門の債務残高の比率が過去の長期トレンドとどの程度乖離しているかを『債務・GDPギャップ』として定期的に公表。その水準が『9%ポイント』に到達した場合、3年以内に金融危機が起こる可能性が高いとしている」

     

    (2)「直近の2017年10~12月期の債務・GDPギャップをみると、中国が12・6%ポイント、カナダが9・0%ポイントと警戒ライン入りし、高水準に位置する。内閣府は『中国とカナダで金融危機が起こりやすい状況となっている可能性を示唆している』と指摘。その上で、『両国とも16年に低下に転じており、金融危機発生の可能性が年々高まっている状況にない』とも強調している」

     

    この記事に啓発されて、内閣府の「世界経済の潮流(世界経済報告)」のグラフを見ると、確かに減っている。だが、上記の債務・GDPギャップは、16年末には30%に達していた。それが、昨年10~12月期に12・6%ポイントまで下げさせた。余りにも急激過ぎる。これは、企業の経営体質を相当に痛めていると見るほかない。まさに、アクセルから急ブレーキを踏ませた形で、乱暴きわまりない経済政策である。

     

    中国が、危険ラインの9%を恒常的に上回るのは12年以降である。習氏が国家主席に就任して以来、一貫して放置したことを物語っている。習氏は、政府管理経済だから破綻を未然に防げる。そういう思い上がった考えを持っていたのだろう。それが、手に負えなくなって急ブレーキを踏ませ、企業の体力(潜在能力)を損ねる結果を招いた。

     

    習氏の責任は極めて重い。胡錦濤時代は、危険ラインを超えてもすぐに是正の手を打っている。習氏は、全く打たずにGDPを押上げさせ、自らの権力基盤を固めることに腐心していた。権力維持のために国家経済を犠牲にしたと言える。これぞまさに、「国家反逆罪」に相当する罪に思えるのだ。

     

    統制に依存した中国経済は、政府のさじ加減一つで動かされているロボットである。市場機構に従う自律的な存在ではない。中国経済の抱える本質的な矛楯がお分かり頂けると思う。興味のある方は、ぜひとも内閣府の発表を見ていただきたい。

     

     



    中国は、貿易戦争の緒戦から大きな影響が出ている。最大の輸出先が米国である以上、米中が紛争を起こせば「タダでは済まない」と思うのは常識だ。中国政府は、こういう常識が欠如しており、「徹底抗戦」などという太平楽な枕詞を並べてきた。

     

    中国の企業レベルでは、この米中貿易戦争は深刻である。中国政府が、最大の「顧客」である米国とことを構えるというのだから一斉に設備投資を控えている。特に、工作機械の設備投資にその影が現れている。これには、後述の慎重な貸出政策も影響を与えたようだ。

     

    『日本経済新聞』(8月21日付 電子版)は、「中国の工作機械『爆買い』にブレーキ、5カ月連続マイナス」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国による工作機械の『爆買い』に急ブレーキがかかっている。日本工作機械工業会が発表した7月の受注額(確報値)は、中国向けが5カ月連続で前年割れ。全体が13%増と好調が続くだけに、外需の4分の1を占める中国の変調は際立つ。米中の貿易摩擦への懸念から中国投資に二の足を踏む動きも広がっているようだ」

     

    中国からの受注だけが落込んでいるのは、米中貿易戦争の影響と見て間違いあるまい。

     

    (2)「国・地域別の受注額で中国は、205億円と前年同月比8.5%のマイナスと、5カ月連続で減少が続いた。金額ベースでも17年1月以来18カ月ぶりの低水準だ。不調の原因とされてきたのが電子機器の受託製造サービス(EMS)向けだ。スマホの新機種投入時などに大量発注があるため、もともと波が大きい。『ただ今回は一般機械向けも落ち込み、米中摩擦の影響で中国全体が弱含んできている可能性がある』という」

     

    興味深いのは、3月から連続5ヶ月前年比マイナスであることだ。実は、今年の3月からマネーサプライ(M2)の増加率が1~2月の8.6~8.8%が、3月以降7月まで8.0~8.5%へ鈍化している。これは、銀行の貸出(信用創造)が落込んでいる結果である。銀行が、米中貿易戦争を警戒し新規貸出に慎重になる、「信用収縮」現象が起こった結果と見られる。中国の工作機メーカーは、正規の金融機関から融資を受けているはずだ。それ故、中国全体を覆う金融逼迫の影響が現れている。こういう状況では、日本の工作機受注の回復も難しいと見られる。

     



    中国へ進出している外資系企業は、中国共産党の強引なやり方に嫌気がさしている。外資系企業にも共産党委員会をつくらされたからだ。こういう発想法はどこから出てくるのか。「世界は全て中国共産党が支配する」という錯覚に陥っているとしか言いようがない振る舞いだ。昨年11月の時点で次のような報道があった。

     

    『大紀元』(2017年11月25日付)は、「中国共産党の外資経営介入に撤退もあり得る、ドイツ商工会議所がけん制」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国政府は90年代から、外資系企業での党支部の設立を推し進めてきた。最近では、党支部長の取締役会への参加を義務づけるなどコントロールが強まる一方で、双方の溝が深まっている。同ドイツ商工会議所は17日の記者会見で、在中ドイツ企業を対象にしたアンケート調査の結果を明らかにした。それによると、中国政府のやり方は企業の経営に支障をきたすとの回答が多く、4分の1の企業が、追加投資をしないのはこうした法律の変更・当局の監視が一因だと答えた」

     

    外資系企業は、強制的に共産党支部をつくらされる。この感覚はどういうものなのか。企業秘密を探らせせる目的であろう。共産党という組織は、本質的にスパイ活動の要素を備えているのだ。

     

    (2)「ドイツのクラウス駐中国大使は同記者会見で、一部の外資系企業は党支部により大きな経営権を与えるよう求められ、そのための投資契約の改定を迫られていると述べ、『中国市場からの撤退を検討せざるをえない』と中国政府に警鐘をならした。ドイツは欧州連合の対中投資総額の半分強を占めている。クラウス大使は、党支部の経営参加は、対中の直接投資に影響をもたらすと示唆し、今年の欧州連合の対中投資はすでに減少したと話した」

     

    一部の外資系企業は、党支部から大きな経営権を与えるように求められている。これに合わせて、投資契約の改定を要求している。越権行為に驚く。株主でも従業員でもない共産党支部が、何を根拠にしているのか。こういう不法要求が出ていることは、中国の傲慢さを表わしている。今回の米中貿易戦争は、起こるべくして起こったとも言えよう。外資系企業は、米中紛争をいい機会として捉え、中国を撤退するのも一つの選択だ。

     

    (3)「中国指導部高官の談話によると、16年末までおよそ70%の外資系企業に党支部が進出した。米企業研究所の国際貿易専門家のバフェルド氏は、大紀元本部の取材でこう述べた。『政府当局者が民間企業の経営に加わるのは法律違反で、国際貿易のルールにも沿わない。中国政府の要求は荒唐無稽そのものだ』と批判し、世界貿易機関(WTO)が立ち入って阻止すべきと述べた」

     

    70%の外資系企業は、16年末までに党支部が進出したという。これが、表沙汰にならなかったのは、外資系企業が我慢していたに違いない。この事態は、WTO違反である。米中貿易戦争をきっかけにして廃止させなければならない。

     

    『ロイター』(8月20日付)は、「貿易戦争が米企業に迫る『メイド・イン・チャイナ』再考」と題する記事を掲載した。

     

    (4)「約30年前、低コストの世界製造拠点として発展しつつあった中国南部にやってきたラリー・スローブン氏は、これまでに電動工具からLED照明器具に至る数百万ドル規模の製品を、米国の大手小売業者向けに輸出してきた。そうした時代は終わりを迎えつつあるのかもしれない。広範な経済近代化策の一環として、中国政府がローエンドの製造業からハイテク産業へと優遇対象を転換する中で、製造業界はその圧力を感じてきた。だが関税が発動される中で、『皆ついに目が覚めて、現実に向き合おうということになった』とスローブン氏は語る。製造業界は、『次の関税措置がとどめを刺すかもしれない』と懸念を深めているという。スローブン氏は、中国でのエクスポージャー(注:経済的なリスク)を減らして、タイなど成長する製造拠点に足場を広げようとしている」

     

    中国政府は、ハイテク産業を優遇する一方、ローエンドの製造業を圧迫しているという。そこへ、今回の貿易戦争による高関税が加わる。これが、最後の一撃になって脱中国の決断を迫っている。

     

    (6)「医療機器から農業用具に至る米国のメーカー10数社をロイターが取材したところ、自国向け輸出を手掛ける企業が、どのように中国における製造戦略を見直そうとしているかが浮き彫りになった。『関税の話が出る前は、生産全体の3割を中国から米国に移すことを検討していた』と、医療製品の米製造会社で欧州ディレクターを務めるチャールズ・ハブス氏は言う。賃金上昇や労働力の縮小、コスト急騰が、その理由だった。『最近の関税を巡る動きを受け、実際に関税が発効するならば、生産の6割を中国から米国に移すことになるだろう』という」

     

    医療機器から農業用具に至る米国のメーカーは、関税問題が出る前に生産の3割を米国へ戻す計画であった。賃金上昇や労働力の減少、コスト急騰が理由だった。そこえ、関税騒ぎが起こったので、6割を米国へ戻して経営のバランスをとるという。

     

    3年ほど前から、米企業の本国帰還は取り沙汰されてきた。米国は、人件費の絶対水準で高いが、生産性の向上でカバーするので単位労働コストとしてみれば米中で差がなくなっていた。米中の貿易戦争が長期化すれば、早く米国へ生産機能の一部を戻した方が合理的決定と言えそうだ。中国は、外資の脱出を考慮に入れなければならなくなった。

     

     

     



    米中の貿易摩擦をめぐる交渉は、8月23~24日にわたりワシントンで開かれる。この会談にかける米中の姿勢に差がある。トランプ大統領は、「期待していない。交渉は長期になる」と発言する一方、中国側は「期待する」としている。この差は、米中貿易戦争における力関係の違いを示している。

     

    米国は、持久戦に持ち込めば有利と見ている。中国に進出している外資系企業は、高い関税を回避すべく中国を脱出するからだ。それによって、中国経済を弱体化に追い込めると見ている。

     

    先ず、トランプ大統領のインタビュー記事をみておきたい。

     

    『ロイター』(8月20日付)は、「トランプ氏、米中通商協議に多くは期待せず」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「トランプ米大統領は20日、ロイターとのインタビューで、今週ワシントンで行われる中国との通商協議で多くの進展が得られるとはみていないと述べた。大統領は、中国との貿易摩擦の解消に『期限はない』とし、『中国と同様に、私は長期的な視野を持っている』と述べた。その上で、中国の代表団はまもなく到着する予定だが、協議に『多くは期待していない』と語った。大統領は、対中貿易摩擦の解消には時間を要すると指摘。『中国は余りにも長い間、余りにも好調だった。中国はわがままになった』との見方を示した」

     

    トランプ氏の発言を要約すると次のようになる。

        中国との貿易摩擦の解消に「期限はない」。

        中国と同様に、私は長期的な視野を持っている。

        中国は余りにも長い間、余りにも好調だった。中国はわがままになった。

     

    上記の3点から浮かび上がるトランプ氏の「対中攻略法」は、米国が2008年のリーマンショック後、経済再建に没頭していたことへの反省がある。その間に、中国は南シナ海へ進出する。米国の技術窃取を好き勝手にやって、米国の国益を侵害する。国際秩序を中国流に塗り替える動きをみせている。これら全てをご破算にして、振り出しに戻させたい。トランプ氏は、こういう強い決意を秘めていると見るべきだろう。「米国第一」とは、米国覇権が揺るぎないものであることを宣言したと思われる。

     

    米中貿易戦争は、ビジネスだけの問題ではない。覇権がかかっている。それだけに、貿易赤字が減ったとか増えたとかいう問題の域を超えている。米国は、腰を据えて中国を追い詰める戦略に出るに違いない。後顧の憂いないように、中国経済の骨抜きを図るだろう。米国が、日本占領で見せたあの凄みの再現だ。米国の怖さはここにある。「ヤンキー魂」であろう。

     

    具体的には、中国経済の封じ込めである。日欧米の三極は、手を結んで共同市場をつくり中国を排除する。こうなると、中国は工業製品をつくっても売り先がない状態になろう。時間が経てば否が応でも、中国は国有企業中心の経済構造を捨てて、WTOルールに合わせた行動に従うだろう。それが、いつ実現するのか、誰にも分らない点が、長期持久戦の意味である。

     

    中国を封じ込めるとすれば、外資系企業は中国に進出する意味がなくなる。中国では、人件費が上昇し、電気代や地代が米国を上回っている。その上、外資系企業にまで共産党委員会が組織化されて、同居する異常な時代である。外資系企業が中国を捨てる時期は、今回の米中貿易戦争によって早まる。

     

    (2)「中国外務省の陸慷報道官は北京で開かれた定例会見でトランプ大統領の発言に関して質問され、中国は協議が『良い結果』に至ることを期待しているとコメント。『双方が静かに落ち着いて腰を下ろし、平等と同等、信頼に基づき、良い結果を出すことに専念するようわれわれは期待している』と語った」

     

    中国が、焦っていることは疑いない。株価や人民元相場の不安定さから見て、市場心理を落ち着かせなければならない。それには、米中が交渉しているという「事実」が必要なのだ。それにしても、中国の対応は随分とおとなしくなってきた。これまで、米国と対等だと力で見せたが、誰もそうは見ていない。自らの実力のほどを自覚して行動することが、事態の解決に必要である。

     

    米中貿易戦争は、生産基地としての中国の魅力を失わせている。25%もの関税をかけられたら、ほとんどの製品が競争力を失う。トランプ氏が、中国との貿易摩擦の解消に「期限はない」としている。25%の関税を長期にかければ、外資系企業は中国を脱出せざるを得まい。それが、中国経済を弱体化させる最大のテコだ。中国が、窮地に追い込まれれば、WTO規則の「完全遵守」宣言を出すかもしれない。そうなれば大団円だが、習氏の責任問題が発生する。習氏は、自らの首がかかっていることを知るべきだ。

     

     


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    中国がいかに大国風を吹かせているか。それを証明する話が、また出てきた。南太平洋の夢の国パラオが、中国との国交を拒否したことを理由に、中国人旅行客の渡航禁止命令を出したのだ。大国中国が、人口2万1000人の小国に対する仕打ちとして、度量を疑われる行動だ。中国がいくら美辞麗句を並べ、近隣諸国と融和に務め、中国式社会主義を目標にすると言い募っても、この「パラオ虐め」を見れば、全てウソであることがわかる。

     

    『朝鮮日報』(8月21日付)は、「中国、団体旅行禁止で小国パラオに外交圧力」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「昨年、『台湾と断交しろ』という中国の要求をきっぱりと拒否したことで注目を集めた太平洋の島国パラオが中国の報復に苦しんでいる。中国がパラオへの団体観光を禁止し、パラオを代表する産業である観光業が枯渇しているからだ」

     

    中国は、台湾の外交的孤立を進めている。8月21日、南米のエルサルバドルは台湾と断交し、中国と国交を結んだ。台湾外務省の声明では、エルサルバドルは、台湾に巨額の支援(港湾開発)を求めたが、採算性に問題があるとして断ったところ台湾と断交し、中国と国交を結んだ。明らかに、中国の札束外国の結果だ。

     

    パラオは、エルサルバドルのような道を選ばなかった。台湾との信義を守ったのだ。中国は、その報復としてパラオへの旅行禁止措置という仕打ちをしてきたもの。なんとも、えげつないことをやるものだ。こういう事例からみると、台湾断交の切り札は、全て「カネ」であろう。トンガ初め8ヶ国が、中国の「借金漬け」にされ後悔している。中国の甘言に乗ったら国を失う覚悟をすることだ。

     

    (2)「パラオの人口2万1000人の約6倍に当たる12万2000人の外国人観光客が押し寄せていた。そのパラオは最近、ホテルの客室やレストランに閑古鳥が鳴き、観光遊覧船が港に停泊したままとなっている。旅行会社の廃業も相次いでいる。観光客の半数近く(5万5000人)を占める中国人観光客が途絶えたからだ。台湾と外交関係を持つ1つであるパラオは昨年、中国に台湾との断交を迫られたが拒否した。中国はパラオを自国民が行くことができない『不法観光地』に指定することで報復した」

     

    パラオの1人当たり名目GDPは、1万7096ドル(2017年)、191ヶ国中47位である。中国は同8643ドル(2017年)、75位である。これか見ると、パラオの民度が上、とも言えそうだ。中国の行動は、このGDP尺度に現れている。

     

    パラオの大統領は毅然として、中国の圧迫に屈しない姿勢で、次のように語っている。

     

    トミー・レメンゲサウ大統領は、ロイターとのインタビューで、観光規制について中国から公式な通知は受けていないと説明。また、集団での観光は環境に被害をもたらしているとし、パラオはより多くを支出する観光客に焦点を合わせることで中国人観光客の減少に適応していると述べた。2017年には、観光名所のひとつだった塩水湖ジェリーフィッシュ・レイク(クラゲ湖)がクラゲの減少から閉鎖されたが、これも大勢の観光客が原因のひとつとされる」(『ロイター』8月21日付)。

     

    集団旅行客を迎えるよりも、パラオの自然環境を心から楽しんで貰える質の高い観光客を迎えたいという。世界のエコロジストが集える「最後の楽園」であって欲しい。同時に、自由と民主主義を守った土地として語り継がれることを望みたい。


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    マレーシアのマハティール首相が20日、北京での中国李首相との共同記者会見で意味深発言をした。「植民地主義の新たなバージョンがあるような状況は望ましくない」と言い切った。この「植民地主義」批判こそ、中国の「一帯一路」政策に向けられたものである。貧しい国へ多額の資金を貸し付けて債務漬けにする。返済不可能を承知で行なう中国の振る舞いは、かつての植民地主義とどこが違うのか。

     

    毛沢東はこの植民地主義に反対したが、現在の中国は臆面もなく植民地主義を実行している。マハティール首相の「新植民地批判」は、同席した李首相の胸にどれだけ響いただろうか。

     

    戦前の植民地経営では、宗主国が相当の利益を得られた。現在の中国は、「一帯一路」で資金を貸し付けても返済できない国が続出している。中国の政治的影響力を高める目的であるが、皮肉にも中国の経常収支黒字を減少させる要因になった。中国は、「一帯一路」に深入りして、自らの国力を消耗していることに気付くべきなのだ。

     

    『ブルームバーグ』(8月20日付)は、「中国訪問中のマレーシア首相、新植民地主義に警告発する」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「マレーシアのマハティール首相が北京での20日の記者会見で貿易に関して発したメッセージは、恐らく中国の李克強首相が予想していたものとは違った。李首相が貿易を巡る見解を尋ねた際、マハティール首相は公平である限りにおいて自由貿易を支持すると言明、各国が発展の異なる段階にあることを誰もが思い出す必要があると主張した」

     

    マハティール氏は、自由貿易の前提は公平であると言っている。中国は、「一帯一路」で不公平な行為をしていると示唆するのだ。

     

    (2)「マハティール首相は、『植民地主義の新たなバージョンがあるような状況は望ましくない。オープンで自由な貿易というだけでは、貧しい国々は豊かな国々と競争することができない』と述べ、『公平な貿易であることも必要だ。そうであれば私は李首相と共に自由貿易を支持する。これは世界全体が進むべき方向だと考えているからだ』と語った」

     

    中国が、自らの経済力の優越性を笠に着て、貧しい国に対して不公平な条件を押しつけている。マハティール首相が批判する点だ。「中国よ、謙虚になれ」。90歳を超えた老首相が、大国の首相を諭している。歴史的な記者会見であろう。


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    パキスタンは、過剰債務を抱えて財政難に陥っている。IMF(国際通貨基金)から緊急融資を受ける話が出るほどの窮迫ぶりだ。ところが、中国から「待った」を掛けられているのでないかと報じられている。パキスタンがIMFに駆け込むと、中国は一帯一路がらみで融資した内容が公表されて困るから、とされている。金利、担保など、中国のえげつない高利貸しの実態が漏れるので、それを避けたいことが理由である。

     

    中国は、こういう不良債権をかなり抱えている。いずれも一帯一路の建設工事で貸し付けたものだ。問題は、貸付資金から利息を得られれば良いが、「利息の延滞」が山をなしている。このことから、中国の「担保狙いの融資」という乗っ取りが非難されている。

     

    こうしたあくどい高利貸しは、経常収支の黒字を減らしている。利息が入らないから「所得収支」が減って、経常収支黒字減少をもたらしている。

     

    中国の不調とは対照的に、日本とドイツの経常黒字は堅調である。

     

    『ロイター』(8月20日付)は、「ドイツ経常黒字、今年も世界最大となる見通し、2位は日本」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツのIFO経済研究所は20日、同国の経常黒字が今年も世界最大規模になるとの見通しを示した。IFOは、2018年の独経常黒字は2990億ドルと、3年連続で世界最大になるとの推計を発表した。日本の経常黒字は2000億ドルと、ドイツに次いで大きな規模になる見通し」

     

    この記事では、中国に触れていないが、別のニュースソースは次のように報じた。

     

    「エコノミストは中国について、2018年通年で1000億ドル程度の経常黒字になるとの見方を変えていない。ただ、これだけの黒字を計上したとしても、国内総生産(GDP)に対する比率は1%弱で、1995年以来の低水準となる。2019年には0.5%へ落ち込むとモルガン・スタンレーやスタンダード・チャータードなどは予想している」(『ウォール・ストリート・ジャーナル』7月31日付)

     

    ここで、前記の記事を元に、日中独3ヶ国の3年間にわたる経常黒字推移を示したい。単位は億ドル

     

       2018年     2017年     2016年 

    1位 ドイツ 2990  ドイツ 2965  ドイツ 2889

    2位 日本  2000  日本  1954  中国  1963

    3位 中国  1000  中国  1648  日本  1872

     

    前記のWSJによれば、中国は2018年の対GDPの経常黒字比率が1%と見ている。19年には、0.5%に低下するとしている。今年が1000億ドルの経常黒字とすれば、来年は300~400億ドルまで低下するのであろう。

     

    中国の経常黒字がここまで急減するとなれば、相当に深刻な事態と見るほかない。対外的な中国経済の「稼得力」は問題含みという判定が下されよう。習氏は苦しい立場に追い込まれる。


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    中国経済は、最悪事態に突入した。米国ホワイトハウスは、「中国経済は日一日と悪化」と見ているが、その通りの現象が起こっている。日本ではバブル崩壊後の現象と瓜二つだ。かねてから、マネーサプライ(M2)の伸び率急減速に警戒記事を書いてきたが、現実問題となっている。「貸し渋り」や「貸し剥がし」という典型的な信用危機が到来した。

     

    『日本経済新聞』(8月20日付 電子版)は、「中国、貿易協議控え神経質に」と題する記事を系指した。

     

    先週には中国人民銀行(中央銀行)と銀行保険監督管理委員会(銀保監会)が大手銀行への検査に入ると伝達。貸出金や預金、人民元の両替状況などを調べるという。金融当局が銀行の窓口指導にとどまらず検査にまで乗りだすのは異例。金融機関への検査を通じて企業や地方政府の資金繰り改善に万全を期すのが狙いだ。銀保監会が18日に出した通知では『経営が一時的に悪化した企業の貸し剥がしや貸し渋りをすべきではない』と明記。輸出企業への金融支援を強化することや、インフラ案件への融資を増やすことも求めた」

     

    この記事から伝わるのは、中国金融当局が必死になって信用危機を食い止める「火事場の混乱」である。中国経済が、ここまで追い込まれていることに、感慨を覚えるのだ。2008年のリーマンショックで、中国経済は大きな衝撃を受け、「4兆元」の資金をインフラ建設に投入した。これが、景気悪化を食い止めたことから、その後一貫して、この手法が使われてきた。その限界と矛楯がついに爆発したと言うべきだろう。この10年間、軌道修正する機会はあったが、習氏の国家主席就任でバブルを加速させ万事休すとなった。

     


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