勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    中国は、EV(電気自動車)・電池・太陽光発電パネルの3業種をテコに輸出増加をめざしているが、米国は超党派でEV輸入を拒否する姿勢をみせている。100%超の関税や1台あたり2万ドル(約300万円)の追加関税を求める法案まで登場する騒ぎだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月28日付)は「米国、中国EVに関税100%超も検討 メキシコ生産に照準」と題する記事を掲載した。

     

    米国の政府や連邦議会は中国の電気自動車(EV)が米国内に流入しないよう対策に動く。議会には100%を超す税率を課し、中国メーカーがメキシコで生産した場合も対象に含める案がある。安さを売りに世界を席巻する中国製EVへの警戒感が超党派で高まっている。

     

    (1)「イエレン財務長官は27日、中国を訪問してEVなどの過剰生産を見直すよう中国政府に求めると表明した。南部ジョージア州で講演した。米メディアによるとイエレン氏は4月にも中国を訪ねる。イエレン氏は「かつて鉄鋼などで、中国政府の支援によって大幅な過剰投資が広がり、過剰生産が発生した。現在ではEVなどの新しい産業で過剰生産能力が構築されている」と説いた。「世界の価格と生産パターンをゆがめ、米国の企業と労働者、そして世界中の企業と労働者にも打撃を与える」と訴えた」

     

    イエレン氏は、EVなどの新しい産業が引き起こしている過剰生産が、世界経済に脅威であることを警告している。米国への悪影響も強調しており、4月に訪中する。

     

    (2)「米政府・議会は国内の自動車産業を保護しようと、貿易障壁を検討している。米国は中国製自動車の輸入に25%の制裁関税を課している。米通商代表部(USTR)は現在、制裁関税の見直し作業中だ。米メディアは自動車がさらなる引き上げを調整していると報じた。連邦議会議員は政府の動きに合わせ、2024年2月以降、続々と具体的な法案を提出した。野党・共和党のジョシュ・ホーリー上院議員は2月末、125%に関税率を引き上げる法案をだした。同党のマルコ・ルビオ上院議員も3月、中国製の輸入車1台あたり2万ドル(約300万円)の追加関税を求める法案を提出した。中国メーカーがメキシコなど他国で生産した車も対象にする」

     

    米国は、すでに中国製自動車の輸入に25%の制裁関税を課している。従来は、これによって中国EVの輸入を防げるとみてきた。だが、最近の中国EVは国内で値下げ競争をしており、25%関税では対抗できない事態になっている。そこで、野党議員からは125%や2万ドルの関税率まで提案されている。

     

    (3)「与党・民主党の重鎮であるシェロッド・ブラウン上院議員らも歩調を合わせるように、3月7日に米政府に関税引き上げを求める書簡を送った。「人為的な低価格の中国製EVが米国に流入すれば、何千人もの米国人の雇用が失われ、米国の自動車産業全体の存続が危うくなる」と記した。現時点では米国内で流通する中国製EVはほとんどないとみられる。議員には一度流入を許せば、一気に普及しかねないとの懸念がある」

     

    与党・民主党も、中国EVへの高関税引上げへ同調する動きが広がっている。11月の大統領選を控えて、与野党は揃って高関税によって中国EVの輸入を防ぐ姿勢をみせている。

     

    (4)「中国の比亜迪(BYD)がメキシコでのEV生産を検討していることも懸念に拍車をかけた。メキシコから米国への車の輸出には一定の条件のもと、関税がかからない。11月の大統領選で対決するのが確実なバイデン大統領と共和党のトランプ前大統領も足並みがそろう。バイデン氏は「中国の政策は米市場に中国車を氾濫させ、国家安全保障にリスクをもたらす可能性がある」と言及するなど、警戒感を度々あらわにしてきた。前大統領も16日、再選した場合には中国の自動車メーカーがメキシコで生産した車に「100%の関税を課す」と明らかにした」

     

    中国のBYDは、メキシコでEV工場を建設する案を検討している。BYDは、メキシコへEV工場を建設しても、米国へは輸出しないとしているが、迂回輸出で米国市場を目指すことは明らかであろう。

     

    (5)「これまでバイデン政権は、対中政策について「(規制対象を絞って厳重に管理する)スモールヤード・ハイフェンス」という目標を掲げてきた。米中の分断は志向せず、先端半導体など一部に限定し、経済への打撃を最小限にする考え方だ。ここにきて、先端品でなくても大量の一般品が米市場を席巻することが経済安全保障上の脅威になるとの認識が米政府・議会で広がり始めた。商務省は1月から旧世代の一般半導体を巡り、中国依存の深刻度を調べ始めた。調査結果を受け、関税引き上げなどの措置を検討する

     

    中国経済が、停滞しているだけにダンピング輸出で苦境打開を図る事態は十分に想定される。米国は、それだけに中国EVの輸入へ強い警戒観をみせている。この騒ぎは、旧世代半導体輸入警戒論まで飛び火している。米国の対中警戒論は、高まるばかりだ。

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    経済産業省は3月27日、2035年ごろをめどに官民で次世代の国産旅客機を開発する案を示した。三菱重工業が撤退した「三菱スペースジェット(MSJ、旧MRJ)」の反省を踏まえ、一社単独ではなく複数社で開発を進める。MSJは、完成後に多くの予約を取りながらも、米国での最終形式証明が取れず23年2月、ついに断念に追込まれた。あれから1年、国策半導体企業ラピダスに倣って、海外との連携を視野に再挑戦する。 

    『日本経済新聞 電子版』(3月27日付)は、「国産旅客機開発に米欧支配の壁 三菱重工は1兆円費やす」と題する記事を掲載した。 

    経済産業省が企業と連携して次世代国産旅客機の開発を目指す方針を固めた。大規模投資が必要となる民間事業者にとって、開発参入の障壁は高い。旅客機開発では2023年に三菱重工業が総額約1兆円を投じたものの撤退に追い込まれた。教訓を生かせるのか。日の丸ジェットの実現に向け、政府による戦略の実効性が問われる。


    (1)「三菱重工は08年に「三菱スペースジェット(MSJ、旧MRJ)」の開発を始めた。民間企業の主導で日本の航空機産業の育成を目指す一大プロジェクトだった。安全性を確保するための設計変更が相次ぎ、6度も航空会社への納期の延期を余儀なくされ、当初1500億円としていた開発費は累計で1兆円規模に膨らんだ。新たに巨額資金を投じても事業の採算性を確保するのが難しいと判断し、23年2月に開発中止を発表した」 

    MSJは当時、世界注目の小型ジェット機(30~50席)として注目された。多くの予約も獲得して、後は米国での形式証明を取る最終段階で断念した。ここまで進めながら、最後の段階で断念しただけに、もう一度「仕切り直し」で臨めば、成功への可能性はあろう。MSJは、三菱重工業1社の単独事業であった。今回は、複数社が参加すれば環境も変わる。 

    (2)「三菱重工幹部は、1社で背負うのはあまりにリスクが大きすぎた」と、MSJ開発を振り返る。3900時間を超える試験飛行では大きな問題は生じず、「技術的な自負はある」と成果を口にする。ただ、米欧が支配する空の「ルールメーキング」の壁を乗り越えられなかった。米航空当局などから商用飛行に必要な型式証明を取得できなかったためだ。「なぜ安全なのか証明しろ」と、厳格なようであいまいな要求に苦しんだ。度重なる開発の延期で部品の大部分を調達していた米メガサプライヤーとの関係も悪化した。部品調達に支障をきたし、値下げ交渉もうまくいかずコストがかさんだ」 

    MSJは、最初から米国航空機産業との連携があれば、不首尾に終わることもなかったであろう。戦時中の戦闘機「零戦」を製作した経験を持つ日本が、最後の詰めの段階で米国から「しっぺ返し」を受けたようなものだ。

     

    (3)「MSJ開発の本拠地となった愛知県内の部品メーカーは「航空関連の人がいなくなってしまった。もう一度やるといっても人が集められるかどうか」と見る。別の部品メーカーの社長は「お金のかかる航空機開発では国が最後まで伴走してくれなければ成功は難しい。MSJは中途半端だった」と指摘する。三菱重工は撤退表明時に航空関連の次世代技術を模索することは公表していた。ただ、「すぐに開発に向けて動き出す機運は社内にない」と同社関係者は話す」 

    今回の国産航空機復活への動きは、経産省の旗振りである。MSJの経験が風化しないうちに立ち上がらなければ、過去の努力が無駄になる。 

    (4)「海外の航空当局を乗り越える以外にも壁はある。政府は水素エンジンを動力にした旅客機などの開発を想定している。背景には航空産業で進む脱炭素の動きがあるためだ。国際民間航空機関(ICAO)は50年までに国際線からの二酸化炭素(CO2)排出を実質ゼロとする目標を掲げている。機体や動力源も新しくする次世代の航空機として主に3種類の開発が進む。航空機に発電用のタービンを搭載してモーターを回すという手法や、水素を使う燃料電池を搭載して発電させる方法だ。ジェットエンジンの燃料をケロシンから水素に切り替える方法も検討されている」 

    日本政府は、水素エンジンを動力にした航空機開発を目指している。水素エンジンでは、トヨタ自動車が開発に取組んでいる。日本の総力を以て取組めば早期に実現へこぎつけよう。

     

    (5)「ただ、次世代航空機に使う動力の開発に向けては欧米が先行している。米航空宇宙局(NASA)は次世代の電動航空機の概念設計を示している。欧州エアバスは20年に水素を使った3種類の次世代機のコンセプトを発表し、35年に向けて開発を進めている。米ゼネラル・エレクトリック(GE)と仏サフランは合弁会社を通じ、水素も使える新型の航空エンジンを開発する」 

    日本も、海外との連携が必要になろう。「単独開発」では、思わざる障害に出くわす。要は、他国との協調路線が必要だ。 

    (6)「日本は官民をあげたプロジェクトで先発勢に追いつけるかも問われることになる。

    日本企業に成功事例がないわけではない。ホンダが小型ビジネスジェット機「ホンダジェット」の商用化に成功している。MSJと比べ同じジェット機と言ってもサイズが全く異なるため、両者の単純比較は難しい。三菱重工はMSJの開発拠点を日本に置き、当初は日本の技術者が主導していた。ホンダは最初から米国に拠点を置き開発から製造まで全て米国で行い、型式証明を取得し商用化にこぎ着けたという違いはある」 

    MSJが失敗し、ホンダは成功した。これは、形式証明の権限を握る米国との関係性がカギを握っている。次期国産航空機開発では、ホンダ式が有効であろう。ホンダのように、開発本体を米国へ移すことはないが、「提携」を密にすることだ。

     

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    3月27日の香港株式市場で、中国最大の電気自動車(EV)メーカー、比亜迪(BYD)の株価が急落した。2023年通期利益が予想を下回ったことを受け、同社が激しい価格競争をかわしながら力強い利益の伸びを維持できるかどうか疑念が強まったからだ。

     

    BYDのライバルであるテスラは、中国での生産を縮小し始めている。テスラは3月に入り、上海工場での「モデルY」と「モデル3」の減産を開始し、労働日数を週6.5日から5日に減らしている。中国でのEV競争が限界にきていることを示している。

     

    『ブルームバーグ』(3月27日付)は、「中国BYD、香港市場で株価急落ー23年通期利益が予想に届かず」と題する記事を掲載した。

     

    BYDの23年通期利益は、予想を10億元(約210億円)下回った。期末配当は1株当たり3.1元と、前年比で約3倍へ増配されたものの、好材料視はされなかった。決算発表を受け、BYD株は一時7.4%安と、昨年8月以来の日中下落率となった。

     

    (1)「アバディーンの投資ディレクター、シンヤオ・ヌン氏は「少なくとも私の見解では、1株当たり利益減少が懸念されている可能性がある」と指摘した。モルガン・スタンレーのアナリストは26日のリポートで、BYDの1株当たり利益は昨年10~12月(第4四半期)に前期比で25%減少した可能性が高いとの見方を示していた」

     

    BYDは、販売台数で23年10~12月(第4四半期)にテスラを追い抜き、EV販売台数で世界首位に立った。ただ、今年1~3月はBYDの販売が集中する中国で旧正月休みがあったため、首位の維持は難しい可能性がある。

     

    BYDの23年販売台数は、EVとハイブリッド合わせて302万台だった。年間目標の達成に向けて第4四半期だけで94万2000台を売り上げた。BYDは今年に入り、中国自動車市場で価格競争の第2ラウンドを開始した。「新時代の電気はガソリンよりも安い」をスローガンに、ガソリン車からEVへの乗り換えを進めようと大半のモデルで値引きを実施している。

     

    こうした値引き競争が、さらなる販売台数増加に結びつかない場合、値引き分は逆に利益を減らすという逆効果を招く「両刃の剣」となる。このリスクを乗り切れなければ、BYDにとって大きな損害をもたらす。

     

    BYDの1株利益が、昨年10~12月期に前期比25%減になったとすれば、これが株価急落要因となる。この基調の上で値引き要因が加われば、1株利益はさらなる減少となる。株式市場が、神経を使う理由だ。

     

    『ブルームバーグ』(3月25日付)は、「BYD、中国でほぼ全モデル値引き-EVで後れ取るトヨタなどに攻勢」と題する記事を掲載した。

     

    BYDは、EV販売で米テスラを抜き世界一になったことに満足せず、今度はトヨタ自動車や独フォルクスワーゲン(VW)などから顧客を奪うことを目指し、価格競争が厳しい中国で積極的な値引き攻勢を仕掛けている。

     

    (2)「BYDは現在、「電比油低(電気はガソリンより安い)」と称するマーケティングキャンペーンの一環として、販売するEVとハイブリッド車のほぼ全モデルを値引きしている。注目すべきは、BYDの最も手ごろなEVの価格がさらに引き下げられたことだ。ハッチバック「海鴎(シーガル)」は5%値下げされ、6万9800元(約147万円)となった。トヨタやVW、日産自動車はEVへの移行で後れを取り、その結果、中国での販売で苦戦している」

     

    「電比油低」とは、EVがガソリン車よりも割安という意味である。EVの「海鴎(シーガル)」は150万円を割っている。この価格帯で、EVの販売台数がどれだけ伸びるかだ。伸びなければ、BYDにとって「丸損」というリスクを被る。

     

    中国の乗用車販売台数は、今年1~2月で前年比17%増加。新エネルギー車は、37.5%の増加だ。テスラの出荷台数は、前年同期から6%の減少になった。年初から値下げを実施したにもかかわらず、テスラは販売台数増に結びつかなかった。

     

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    HV絶好調で他社引離す

    特許件数ダントツ世界1

    EV小休止をフル活用へ

    半導体企業と関係密接化

     

    トヨタ自動車の経営戦略は現在、100%の成功である。リチウム電池によるEV(電気自動車)限界をいち早く見抜いて、次世代電池として全固体電池の開発に全力を挙げているからだ。世界中の自動車メーカーは、リチュウム電池EVへ一直線で進み設備増強に走った。一方のトヨタは、申し訳け程度のEV発売に止めて、現行EVに代替するHV(ハイブリッド車)増産で対応した。トヨタは、この真逆の対応によって無駄なEV投資をまぬがれたのである。

     

    この戦略は、怖いほどの的中になった。現在のEVは、耐久消費財特有の発売初期に躓く「キャズム」(溝)に落込んでいる。耐久消費財は、普及率が16.5%程度の段階で販売が一段落する。初期ユーザーが、購入し終わり後は様子見の段階に入るのだ。そして、数年後に製品改良を経て再び販売が上昇に乗るものである。現在のEVは、まさにこの流れに沿った動きだ。

     

    トヨタは、リチウム電池の欠陥を知り抜いており、全固体電池がカバーできると判断している。だが、この全固体電池も全能ではない。走行距離に自ずと限界があるからだ。こうした技術の限界から、FCV(燃料電池車)・水素エンジン車・合成ガソリンエンジン車といった全ての技術開発に取組んでいる世界で唯一の自動車メーカーである。

     

    HV絶好調で他社引離す

    トヨタが、全方位の技術開発で先導できるのは、高収益体質であるからだ。トヨタのHVは、EV不振を尻目に「飛ぶように」売れていることでも分るように、経営戦略を多角化している。一つの技術に賭けないのだ。

     

    米国では、HVがとりわけ好調である。その理由は、HVの性能が向上してガソリン車との燃費の差が拡大したことや、反対に価格差が縮まっていることが大きい。HVに強みを持つトヨタは、この恩恵がとりわけ大きいのだ。トヨタが、販売会社に支払う販売奨励金は2月が1台あたり1316ドル(約19万9000円)と、業界平均2828ドルの半分以下である。奨励金は、販売店にとっては値引きの原資になっている。つまり、HVはそれほどの値引きもせずに売れているのだ。

     

    米国でHVを持たないメーカーは、販売奨励金が高止まり傾向にある。日産自動車の2月の販売奨励金は3377ドル。米GMは3136ドル、ドイツのVW(フォルクスワーゲン)も4652ドルと高水準である。EV専業のテスラは、平均で3726ドルだ。『日本経済新聞 電子版』(3月24日付)が伝えた。

     

    トヨタの2023年12月決算は、HVが大きく貢献して純利益が過去最高の3兆9472億円に達した。営業利益率は11.6%と2桁である。トヨタのライバルVWは、後記のように7.1%(23年)である。高収益とされるEVメーカーの米テスラは9%(同)である。トヨタの営業利益率が、他社を大きく引き離しているのだ。

     

    自動車メーカーは、この営業利益率が経営指針として大きなメルクマールになっている。5%を切る状況では、技術開発余力を失うとして警戒されている。過去のトヨタの営業利益率(連結決算ベース)は、次の通りである。

    2019年3月期 8.16%

    2020年3月期 8.03%

    2021年3月期 8.08%

    2022年3月期 9.55%

    2023年3月期 7.33%

     

    以上の推移からみても、23年4~12月の11.6%の営業利益率が、飛び抜けていることがわかる。円安も絡んでいるが、冒頭に上げた無駄なEV投資をしなかったことや、HVの販売が絶好調という経営戦略の勝利がもたらした結果と言えよう。

     

    世界で2位の自動車メーカーは、ドイツのVWである。VWは、EV一直線組であり現在、大きな路線変更を迫られている。今夏から予定した独北部ウォルフスブルクにある本社工場で、量産型EV「ID.3」の生産開始計画を取り止めた。元々は、23年末から生産開始予定だったが延期していたものだ。ID.3は、VWにとって年14万台を販売するEVの旗艦モデルである。こうした事情で、東欧で検討していたEV用電池のセル生産工場の投資も延期された。

     

    VWは、EV戦略変更で多額の資金が稼働せずに「お蔵入り」している。無駄になったのだ。こうしてVWの営業利益率は、昨年12月期にそれまでの8.%から7%に下がった。24年12月期の営業利益率は、「7~7.%」と前期よりやや改善すると予測されている程度だ。VWの状況からみて、トヨタの優位性はさらに広がるであろう。

     

    特許件数でダントツ世界1

    営業利益率が、トヨタ11%でVWが7%では、研究開発費でさらに大きな差がつくはずである。過去の特許件数で、VWは既に大きく引き離されているのだ。

     

    朝鮮日報と韓国特許庁は、全世界の特許の80%以上を占めるIP5(韓国、米国、欧州、日本、中国)の国・地域の自動車特許出願状況を調べた。それによると、自動車主要技術3分野で、トヨタは約1万3000件余の特許を出願し、トップであることが分かった。『朝鮮日報』(3月13日付)が報じた。(つづく)

     

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    https://www.mag2.com/m/0001684526

     

     

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    中国は、米国との対立によって半導体の輸出規制に苦しんでいる。中国国営メディアの環球時報は、韓国半導体SKハイニックスに対して中国国内で操業する半導体工場への投資拡大を呼び掛けた。中国が、半導体でいかに苦しんでいるかを示している。

     

    『中央日報』(3月27日付)は、「『韓国企業が利益損なわないよう』、中国国営メディア SKハイニックス名指しで投資拡大促す」と題する記事を掲載した。

     

    米中間の半導体戦争が加熱している中で、中国がSKハイニックスを名指しして韓国が米国主導の対中半導体輸出規制に参加しない代わりに中国に対する投資を拡大するよう促した。

     

    (1)「中国国営メディア『環球時報』の英文版である『グローバルタイムズ』は25日、「韓国半導体メーカーに中国追加投資が重要だ」というコラムを通じ、中国発展フォーラムに参加するために北京を訪れたSKハイニックスの郭魯正(クァク・ノジョン)代表理事社長について「SKハイニックスに中国市場の重要性を強調すると同時に中国で『さらに大きな成功』を収めたいという決意を見せてくれた」と主張した。その上で「郭社長の訪問は韓国政府が半導体生産装備の中国輸出を制限するか検討しているとされる敏感な時点になされた。こうしたニュースが事実でないよう願うが、韓国がこの問題を検討しているならば韓国企業の利益を害せず保護する理性的な選択をするよう希望する」とした」

     

    中国が、SKハイニックスの半導体工場へ依存していることを示している。米国は、こういう事情を知っているので、韓国へ圧力を掛けている。

     

    (2)「中国商務部の王文涛部長は22日に郭社長と会い、SKハイニックスが続けて中国投資を増やし中国に深く根ざして、中国の高品質発展がもたらす成長機会を共有することを希望するという考えを示した。これに対し郭社長は、「中国はSKハイニックスの最も重要な生産拠点であり販売市場のひとつとしての地位を確立した。今後も中国に根を下ろしもっと大きな発展を成し遂げられるよう中国内事業を絶えず推進するだろう」と答えた。SKハイニックス関係者によると、面談は良い雰囲気の中で進行されたという」

     

    中国は、商務部長(日本の経産大臣)までがSKハイニックスへ中国投資の増加を要請している。中国半導体事情の窮迫を示している。

     

    (3)「こうした雰囲気とは別に同メディアはコラムを通じ、中国投資拡大の重要性を強調し、誤判断で被害を受けないよう圧迫を加えたと分析される。グローバルタイムズは「SKハイニックスがNAND型フラッシュの30%、DRAMのほぼ半分を中国で生産する。米国の輸出規制で中国工場での生産に支障が出ればSKの技術高度化戦略もともに支障が出る」と強調した」

     

    SKハイニックスにとって、中国半導体工場は大きなウエイトを占める。これは今後、米中関係のさらなる悪化の場合、SKハイニックスが致命的打撃を受ける予兆でもある。

     

    (4)「SKハイニックスは、2020年に90億ドルを投じて米インテルのNAND型フラッシュ事業部を買収し、大連工場も譲り受けた。2022年5月には大連第2工場も着工した。しかし米国の対中半導体装備規制などの余波で中国事業本部の業績が振るわず、絶えず「大連工場売却説」が流れている状況だ。SKグループの崔泰源(チェ・テウォン)会長は昨年7月に「中国は代替可能な市場ではない」として大連工場売却説を否定した」

     

    SKハイニックスは、「大連工場売却説」が常に出てくる背景として、米中関係の緊迫化が存在する。SKハイニックスも、米中対立の狭間で苦悩しているのだ。

     

    (5)「中国は、米インテルとAMDのマイクロプロセッサーを自国政府機関のパソコンとサーバーから段階的に締め出す指針を昨年12月末に導入し施行中だ。米国がファーウェイなど中国企業の先端半導体開発を防ぐために制裁を強化し、中国もやはり米国のIT企業の影響力を減らすとして正面から対抗する作戦に乗り出している」

     

    中国は、米インテルとAMDのマイクロプロセッサーを政府機関の購入から締め出している。ここで、SKハイニックスが中国投資を控えることになれば、中国政府の米国半導体締出し策が空洞化するのだろう。中国は、とんだところで自らの弱点をさらけ出している。

     

     

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